ニュース速報
ワールド

焦点:米チャイナタウンをトランプ関税直撃、中国製品軒並み値上がり

2025年04月21日(月)14時53分

 4月18日、 米ニューヨーク・マンハッタン南部の中華街の一角、マルベリー・ストリートにある「スン・ビン食品店」では先週、袋入りせんべいが4.99ドル(710円)で売られていた。ニューヨークのチャイナタウンで14日撮影(2025年 ロイター/Kylie Cooper)

Hannah Lang Judith Langowski

[18日 ロイター] - 米ニューヨーク・マンハッタン南部の中華街の一角、マルベリー・ストリートにある「スン・ビン食品店」では先週、袋入りせんべいが4.99ドル(約710円)で売られていた。

しかし今週、トランプ大統領による中国製品向け追加関税が発動されると、同じせんべいの値段は6.99ドルに改定された。

米国全土の中華街は、激化の一途をたどる関税戦争の影響を痛感している。伝統的な薬や乾麺、ヒスイの宝飾品など中国から輸入されるさまざまな製品の価格が既に上昇し始めたからだ。

トランプ氏が打ち出した対中関税の累計税率は145%に達し、中華街で商売を手がける大半が家族経営の零細事業主を直撃している。多くの中国系移民は、他の品で代替できないような中国文化に必要な商品は中華街で入手している。

スン・ビン食品店のマネジャー、ジャスミン・バイさんは「関税の影響は大きいだろう」と話す。この小さな店で販売される春雨や蓮の実のペーストといった商品は、原料を含めて大半が中国から輸入され、一般的な米国の食品店では滅多に見かけることができない。

バイさんは「将来的には顧客が減って、購入量も少なくなるのではないか」と不安を口にした。

ニューヨーク市の小規模事業者支援部門によると、マンハッタン南部の中華街の住人の年間小売り製品・サービス支出は11億5000万ドルで、中華街での取引の約80%を地場の企業が占めるという。

<不確実性に翻弄>

二転三転するトランプ氏の関税政策は中華街の事業主らに混乱をもたらしている、と語るのは宝石で飾ったチェーンやペンダントがヒップホップアーチストから人気を集めているニューヨークの宝飾品店「ポピュラー・ジュエリー」を経営するエバ・サムさんだ。

サムさんは「突然の政策変更やエスカレートする関税のせいで、客に一貫した価格を提示するのがほぼ不可能になる」と嘆く。

ポピュラー・ジュエリーは24カラットの金や加工したヒスイを中国から輸入しており、サムさんは、既に輸入宝飾品の価格は10%引き上げざるを得なくなったと明かした。

この店で働くサムさんの息子、ウィリアム・ウォンさんは「長期でも短期でも意思決定をするのが極めて難しい。なぜなら関税が恒久化されるのか、どの分野に適用されるのか、あるいはトランプ氏が今後撤廃するのか判然としないからだ」と述べた。

ニューヨークの中華街の事業者支援に取り組む非営利団体「ウェルカム・トゥ・チャイナタウン」によると、この地域のほとんどの店が抱える在庫は1カ月か2カ月分しかない。

30年間中華街で働いてきた薬剤師ダニエル・デララッタさんの店も例外ではなく「後発薬の大半は向こう90日以内に価格が大幅上昇することになるだろう」という。

現像に使う素材などを中国から仕入れているという写真店「エリズ・デジタル」の店主も、長年値上げせず頑張ってきたものの、関税によって値上げはやむを得なくなるだろうと述べた。

<最古の中華街にも逆風>

米国最古の歴史を持ち、住民や事業主同士のつながりが緊密とされる中華街があるサンフランシスコ。中華街商店連合会のエドワード・シュー会長は、事業主の間では不確実性が広がっており、今後生産的な米中交渉が行われることを期待していると話した。

40年間、地元で旅行代理店を営業してきたシュー会長は「多くの人は次に何が起きるか分からないと感じている。彼らは目下、とても心配し不満を感じている」と強調した。

サンフランシスコ中華街の目抜き通り、グラント街でヒスイの宝飾品を販売している「リンダ・ブティック」の経営者セレナ・リーさんは、関税発動以降で商品の販売価格は3倍になったと語る。店の商品の原材料はミャンマー産だが、最終加工品は中国から輸入される。

リーさんは「何か変えるとすれば、事業全体を変えなければならず、一筋縄ではいかない」と説明した。

ストックトン・ストリートで小さな食品店を経営するメイ・チューさんは、在庫がなくなる事態を心配している。顧客が値上がりを見越して駆け込みで買い物しようとしているためだ。

チューさんは「売り物が残っていない」と述べ、中国からは輸入していない塩まで多くの客が大量購入していると付け加えた。

シュー会長は、米中両国政府に、彼らの政策によって自分のような中国系米国人の事業主が被る被害を考慮して欲しいと訴えた。「現時点で私たちは危険領域に入っている」

ロイター
Copyright (C) 2025 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:ドローン大量投入に活路、ロシアの攻勢に耐

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダックほぼ変わらず、トラ

ワールド

トランプ氏、ニューズ・コープやWSJ記者らを提訴 

ビジネス

IMF、世界経済見通し下振れリスク優勢 貿易摩擦が
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは「ゆったり系」がトレンドに
  • 3
    「想像を絶する」現場から救出された164匹のシュナウザーたち
  • 4
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 5
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 6
    「二次制裁」措置により「ロシアと取引継続なら大打…
  • 7
    「どの面下げて...?」ディズニーランドで遊ぶバンス…
  • 8
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 9
    「異常な出生率...」先進国なのになぜ? イスラエル…
  • 10
    アフリカ出身のフランス人歌手「アヤ・ナカムラ」が…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 4
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 8
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 9
    ネグレクトされ再び施設へ戻された14歳のチワワ、最…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中