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焦点:韓国電池メーカーが訴訟合戦、世界のEV生産に支障か

2019年11月30日(土)08時10分

11月27日、ドイツの自動車大手フォルクスワーゲン(VW)が米国で生産する電気自動車(EV)用の電池を巡る数十億ドル規模の受注競争で昨年、韓国のSKイノベーション(SKI)は規模が上手の同国LGケム(LGC)を打ち負かした。写真はSKIのロゴ。ソウルで2017年2月撮影(2019年 ロイター/Kim Hong-Ji)

Hyunjoo Jin and Heekyong Yang

[ソウル 27日 ロイター] - ドイツの自動車大手フォルクスワーゲン(VW)が米国で生産する電気自動車(EV)用の電池を巡る数十億ドル規模の受注競争で昨年、韓国のSKイノベーション(SKI)<096770.KS>は規模が上手の同国LGケム(LGC)<051910.KS>を打ち負かした。

SKIは今年3月には米ジョージア州コマースで、総工費17億ドルをかけて建設する電池工場の起工式を鳴り物入りで実施。そこから約200キロ離れたVWのテネシー州チャタヌーガ工場が、米国におけるVWのEV生産拠点となる。

しかし、LGCには腹案があった。

VWからの受注競争に敗れた上、ソウルの漢江を挟んでにらみ合う宿敵SKIに77人の従業員を奪われたLGCは4月になって、企業秘密を不正入手したとして米国でSKIを提訴した。

それから7カ月後。両社は電池の特許侵害を巡り米国で互いを提訴した。血で血を洗う確執の成り行き次第では、世界最大級の自動車メーカー数社のEV発売に混乱を来しかねない。

ロイターが確認した提訴書類によると、両社が互いに求めているのはテネシー州のVW工場で製造予定のSUV(スポーツ用多目的車)のほか、ゼネラル・モーターズ(GM)の「シボレー・ボルト」、フォード・モーターの各種ピックアプトラック、ジャガー・ランドローバーの「I―PACE」、VW傘下アウディの「e-tron」、起亜自動車<000270.KS>の「Niro(ニロ)」といったEV用の電池の輸入および販売の停止だ。

韓国企業が米国でEV用電池を供給できるかどうかが、この係争に掛かっている。折しも自動車メーカー各社はEV用電池の需要急増を見据え、納入を確保しようと競って高額の契約を結んでいる。

「両社が和解しない限り、係争に敗れた方が致命傷を負うことになる。自動車メーカーにとっても手痛い事態だ」と蔚山科学技術大学校のCho Jae-phil教授は言う。

フォードの広報ジェニファー・フレーク氏はロイターへの電子書面で、LGCとSKIが法廷で争わずに対立を解消するのが望ましいとし、複数の電池メーカーが共存できるだけの需要があるはずだと指摘。「問題は承知している。当然のことながら、当社は自社の利益を守るために事業継続計画(BCP)を備えている」とした。

GMの広報パトリック・モリセー氏は、係争を承知しており、現時点でEV型シボレー・ボルトの生産への影響は予想していないと述べた。

起亜、ジャガー、VWの各社はコメントを控えた。

<企業秘密>

VWは、今後5年間に発売予定のすべてのEVを考えた場合、電池が足りなくなるのではないかと危惧している。LGCや中国の寧徳時代新能源科技(CATL)<300750.SZ>といったEV用電池メーカーが、欧州の新規工場における急激な増産に対応できる数の熟練労働者を抱えていないことが、その一因という。

韓国の電池産業調査会社SNEリサーチによると、世界のEV用電池市場は2025年まで年間23%拡大して1670億ドル規模に達し、その時点のメモリーチップ市場の1500億ドルを超える見通し。電池はEVを構成する最も高価かつ重要な要素だ。

LGCは訴状で、VW向けEV用電池プロジェクトに携わっていた社員をSKIが引き抜いたと主張。SKIがVWから契約を獲得できたのは、企業秘密を不正入手したからこそだと訴えている。

SKIは、従業員は前の職場で得た情報を使わないという契約に署名しているとして、企業秘密の盗用を否定。広報担当者は「当社は知的財産を尊重する」と述べた。

この問題で、米国際貿易委員会(ITC)は来年6月5日に仮決定を下す。決定がLGCに好意的な内容となれば、SKIがジョージア州もしくはハンガリーの新工場からVW米工場に電池を供給する計画は頓挫しかねない。

LGCは今年4月、ITCに対し、SKIが電池、部品、製造システムを米国に輸入するのを差し止めるよう求めた。このシステムを用いた米国での生産は22年に始まる予定だ。

SKI広報は、米国工場の建設計画に変更はないと説明。年間の電池生産能力はEV20万台分を超える予定だとした。提訴を巡り、供給に影響が出るかなどの問い合わせを顧客から受けているとした。

LGCによると、ITCによる最終決定は来年10月5日になる可能性があるが、LGCは今月、SKIへのいわゆる「欠席裁判」を早急に下すようITCに要請した。

ロイターはITCにコメントを求めたが、返答は得られていない。

<漁夫の利>

両社の訴状によると、米国の特許侵害訴訟で敗れた企業は、その特許を用いた製品の米国での販売を禁じられる可能性が高い。敗訴するのは1社の場合も、両社の場合もある。

両社は韓国でも互いを提訴した。

LGCは書面で、当該の特許を用いたデザインは不可能になると説明。SKIは、特許訴訟に負ければ同社の電池事業は「大打撃」を受けかねないとしている。

両社とも、現時点で供給に支障は来していないと説明した。

EV用電池業界で最初に頭角を現したのはLGCだった。08年には、世界初の大衆市場向けプラグインハイブリッド車となったGMのボルトに電池を供給する契約を確保。以来、テスラを含むほぼすべてのEVメーカーと取引関係を持った。

しかしLGCは従業者の大量流出と格闘してきた。報告によると、16年から18年にかけて1258人が他社に移籍。LGCはロイターに対し、16年以降にSKIに転職した人数は累計で訴訟を起こした今年4月時点の77人から、今では約100人に増えたと説明した。

両社の激しい確執に、韓国政府の当局者らも頭を抱えている。両社の評判に傷が付き、他国のライバル企業が漁夫の利を得て韓国企業からシェアを奪いかねないからだ。

韓国議員らは政府に介入を要請。成允模・産業通商資源相は10月、係争を注視しており、「国全体にとってプラスの結果」をもたらすため、いつ、どんな役割を果たせるか検討していくと述べた。

電池コンサルタントのビージェイ・キム氏は、VWが仲裁に入る必要があるかもしれないと言う。LGCとSKIの対立は電池供給を混乱させるだけでなく、VWにとっての納入業者同士が競争するのを阻害する恐れがあるからだ。

「だれ1人として両社の徹底抗戦を望んではいない」とキム氏は語った。

ロイター
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