アステイオン

アステイオン・トーク

日本文化は「翻訳」できるのか?...「見て、聞いて、味わう」日本文化の本質は「間」にあった

2026年03月25日(水)11時05分
熊倉功夫+桑原ゆう+村田吉弘+佐伯順子

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本座談会は2025年12月22日に同志社大学今出川キャンパス「クラーク・チャペル」で開催された

村田 最近、食品化学者の伏木亨先生と話していて、「今の若い世代はインバウンドと同じ感覚で見たほうがいい」と言われたんです。

たとえば「100年前からの京料理」と説明しても、伝統に価値を見出す感覚が変わってきている。今のインバウンドの観光客が喜ぶ料理のほうが今の若者には響きます。日本人の価値観自体が、この数十年で大きく変わったと感じます。

私は京料理は「ロックンロール」だと言っています。各店が止まらずに、それぞれの方向に転がっていく。同業者同士も敵ではなく、むしろ親戚よりややこしい関係なんですが(笑)、その多様性こそが京料理の魅力です。

佐伯 私もロックバンドをしておりましたので、大いに共感いたします。では最後に、これからの日本文化を担うのは誰なのか。日本人なのか、あるいは海外の人も含めてなのか、一言ずつお願いいたします。

熊倉 東洋と西洋の文化は交わらないという考えもあれば、通じ合えるという例もある。それは人間の可能性の問題だと思います。日本人が世界に示せるのは「感性」ではないでしょうか。それを支えているのが日本語という言語です。断言を避け、主観を通じて語る特徴があります。

その延長線上にあるのが「間(ま)」の文化。音楽、茶道、生け花などに息づいており、変化し続けている。文化は変わっていくものだが、それでも何かが残る。その鍵もまた、言語や感覚にあると思います。

村田 料理も同じく変化しています。たとえば、世界のベストレストラン50で1位に選ばれたペルーの「Maido」の料理長はうちで修業しましたが、自分の料理を「ニッケイ(日系)料理」と呼んでいます。

同じ技術を学んでも、風土や顧客の違いで料理は変わります。では、ニッケイ料理と日本料理は何が違うのかというと、やはり食材や味付けなど感覚的にも全然違ってきます。しかし、そういうものだとこの頃はつくづく思っています。

桑原 作曲は99%が苦しみで、1%の喜びのために掘り続けているようなものです。私はその「掘り方」を日本語に支えられていると感じています。日本語の構造には身体性があり、言葉が変わっても根本的な働きは残っていきます。

音にも「音の言語」があり、音自体が語りかけてくる。それを聴き取って書いていく感覚があります。言葉も音も、「聴く」ことが本質なのかもしれないと思っています。

佐伯 本日はそれぞれの世界でご活躍の3人の先生方が一同に会されることで、ひときわすばらしいハーモニーを奏でる貴重なお話をうかがうことができました。本当にありがとうございました。


構成:柴田惇朗(立命館大学大学院先端総合学術研究科 一貫制博士課程)


熊倉功夫(Isao Kumakura)
1943年生まれ。東京教育大学文学部史学科卒業。同大学院博士課程単位取得退学。日本文化史専攻。文学博士。国立民族学博物館名誉教授。MIHO MUSEUM館長。2022年、文化庁長官表彰。主な著書に『後水尾天皇』(中公文庫)、『熊倉功夫著作集』全7巻(思文閣出版)、『日本料理文化史 懐石を中心に』(講談社学術文庫)など多数。

桑原ゆう(Yu Kuwabara)
1984年生まれ。日本の音と言葉を源流から探り、東西・古今をつなぐ創作を展開する作曲家。国立音楽大学准教授、東京藝術大学・洗足学園音楽大学、各非常勤講師。「淡座」主宰。第31回芥川也寸志サントリー作曲賞受賞。KAIROSより作品集をリリース。国立劇場やルツェルン音楽祭など、国内外の主要機関から委嘱を受け、世界各地で作品を発表。

村田吉弘(Yoshihiro Murata)
1951年生まれ。立命館大学在学中にフランス料理修行のため渡仏。大学卒業後、日本料理の道に入る。現在、菊乃井 三代目主人、日本料理アカデミー名誉理事長、全日本・食学会名誉理事長。「和食」のユネスコ無形文化遺産登録に尽力。和食を日本文化の重要なひとつと考え、世界に発信するとともに、後世に伝え継ぐことをライフワークにしている。2018年「黄綬褒章」受章。同年、料理人として初めての「文化功労者」となった。

佐伯順子(Junko Saeki)
1961年生まれ。同志社大学大学院社会学研究科メディア学専攻教授。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(学術)。国際日本文化研究センター客員助教授等を経て、現職。同志社大学京都と茶文化研究センター長もつとめる。専門は比較文化。著書に『「色」と「愛」の比較文化史』(岩波書店、サントリー学芸賞)など多数。


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  『アステイオン』103号
  公益財団法人サントリー文化財団・アステイオン編集委員会[編]
  CEメディアハウス[刊]


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