アステイオン

国際政治

2014年、プーチンが進めた「ノヴォロシア」計画──ウクライナ・アイデンティティ(下)

2022年04月18日(月)15時36分
アンドリー・ポルトノフ(ベルリン・フンボルト大学客員教授)※アステイオン81より転載

「ウクライナではナショナル・アイデンティティが『弱い』というテーゼは、概念的に曖昧なだけではなく、分析上、何の役にも立たない」とロリー・フィニン(Rory Finnin)は考察したが、ソ連崩壊後の政治的現実のなかで「ウクライナ的なるもの」の多様な解釈と定義が存在するという奇妙な現象に鑑みれば、その見方は支持されよう(注8)。

ウクライナの分裂という非現実的かつ確実に暴力的なシナリオではなく、ウクライナが真剣に取り組むべきは、その雑種性(ハイブリディティ)が自律的かつ複合的な主体性の根拠であり、ウクライナの多様性が重要な資産であり、さらに多元主義と曖昧性を維持することが、自由と民主主義の前提条件であると認めることであろう。

翻訳:五十嵐元道(北海道大学大学院法学研究科助教、現・関西大学政策創造学部准教授)

[注]
(3)James Sherr, Ukraina-Rossia-Evropa: otravlennyy treugolnik
[Ukraine-Russia-Europe: a poisoned triangle, in Russian], http://gazeta.zn.ua/internal/ukraina-rossiya-evropa-otravlennyy-treugolnik-_.html ; The new world order, The Economist, March 22nd-28th 2014, p. 9.
(4)Joerg Forbrig, Crimea crisis: Europe must finally check the Putin doctrine, http://edition.cnn.com/2014/03/14/opinion/ukraine-russia-putin-doctrine-joerg-forbrig/
(5)データはすべて次の研究によるものである。Boris Dubin, Rossia nulevykh: Politicheskaja kultura, istoricheskaja pamiat, povsednevnost [Russia of the 2000s: Political culture, historical memory, everyday life, in Russian] (Moscow: Rosspen, 2011).
(6)Dmitrii Furman, Ot Rossijskoj imperii k russkomu natsionalnomu hosudarstvu [From the Russian Empire to the Russian national state, in Russian], Neprikosnovennyj zapas, 2010, No. 5. p. 47.
(7)Boris Dubin, Rossia nulevykh.., p. 24.
(8) See Rory Finnin, Ukrainians: Expect-the-Unexpected Nation, http://www.crassh.cam.ac.uk/blog/post/ukrainians-expect-the-unexpected-nation

アンドリー・ポルトノフ(Andrii Portnov)
1979年ウクライナ生まれ。ポーランドのワルシャワ大学でカルチュラルスタディーズ、ウクライナのドニプロペトロウシク大学で歴史を学ぶ。現在は、キエフのウェブサイトHistorians.in.uaの編集主幹。キエフとベルリンに在住。専門は中・東欧の歴史、思想史。著書にUkrainian Exercises with History(in Russian, 2010)、Historians and Their Histories(Iin Ukrainian, 2011)など[以上プロフィールは、2014年当時のものである]。2022年4月現在、ドイツ・ヴィアドリナ欧州大学教授。


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