アステイオン

地政学

「新しい地政学」の時代

2020年05月12日(火)
熊谷奈緒子(青山学院大学地球共生社会学部教授・新しい地政学の時代における国際社会を考える研究会メンバー)

SUNTORY FOUNDATION

「新しい地政学の時代における国際社会を考える」研究会は、代表の北岡伸一先生、幹事の細谷雄一先生の下に、サントリー文化財団の調査研究として、2015年から2018年まで開催された。

篠田英朗先生、池内恵先生、詫摩佳代先生がメンバーとして、そして田所昌幸先生もサントリー文化財団の理事として参加された。さらに、報告者として、慶應義塾大学教授の廣瀬陽子先生、慶應義塾大学教授の田中浩一郎先生(当時は日本エネルギー経済研究所中東研究センター長)、東京大学教授の遠藤貢先生、東北大学(当時はヘブライ大学)の李承赫先生に参加いただいた。

光栄なことに私もお声がけをいただき、錚々たる研究者の先生方から、世界各地の地政学の最前線の詳細な情報、知識、情勢分析を、広くかつ深く学んだ。ウラジオストク新潟での合宿、「コモンズ」 研究会との横須賀での合同合宿、「グローバルな文脈での日本」の研究会への参加の機会にも恵まれた。研究会は緊張の連続であったが、それぞれの分野における第一線の研究者であると同時に、ルネサンス的教養人でもある先生方との研究会や懇親会での会話からは、大局的視野と人間への洞察をも学際的に学ぶことができた。

ウラジオストクの合宿は、特に印象深かった。間近に見たシベリア鉄道からは、ロシア帝国やソ連の激動の政変、そして戦前の日本の大陸外交の勃興と凋落に翻弄された人々が彷彿された。革命ですべてを失ったロシアの貴族、ソ連の政治犯、シベリア抑留の日本兵などに想いを馳せた。北朝鮮の女性給仕がいるレストランでは、写真禁止で薄暗い店内の異様な雰囲気とは対照的に、彼女たちが自然体であったことにどこかしら安堵を覚えた。と同時に、彼女たちの境遇、これからの人生を思い遣った。

「新しい地政学」研究会は、民主主義、法の支配に基づくリベラルな国際秩序の後退と中国やロシアによる力による現状変更、という地政学の時代への逆行の認識に基づいていた。

研究会が目指したのは、地政学が永続的な地理的条件に基づくゆえに継続的に影響する過程と、地政学が前提とする諸条件の変化により、新しい地政学へと変化した過程の双方を理解することであった。ゆえに、問われたことは、新しい地政学において、何が変わり、何が変わっていないかということであった。

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