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サントリー学芸賞

『サントリー学芸賞選評集』受賞者特別寄稿vol.7 サントリー学芸賞について

2020年04月28日(火)
青木 保(国立新美術館館長)

SUNTORY FOUNDATION

サントリー学芸賞は40周年を迎えるとのことである。この賞は人文社会科学の分野の著作に与えられるものであるが、受賞者を見てもいい意味で狭い専門にとらわれない異分野にも関心を持つ人たちが多い。また大学や専門研究に閉じこもるのではなく、広く社会や世界の動きにも関心を持って対応できる人たちが目立つ。40年経ってもこの賞の存在はますます輝きを放っている。このような学芸賞、日本は言うまでもなく世界のどこにも存在しない。本当にすばらしい賞であり、それをここまで維持され、成長させてこられたサントリー文化財団とサントリーのご努力には心から敬意を表し、感謝したい。

実は私にとってサントリー学芸賞を頂いたのは全く思いがけないことだった。1985年、この年はハーヴァード大学の人類学部のスタンレー・タンバイア教授に招かれて客員研究員をしていた。秋になってケンブリッジの日々を楽しんでいると日本から電話があり、サントリー文化財団の方がサントリー学芸賞に受賞が決まったから受けるか、とのことであった。もちろん喜んでお受けしますとご返事したが、正直言っていまひとつ実感が迫ってこなかったことを覚えている。贈呈式には当時大阪大学の人間科学部の助教授をされていた梶原景昭氏に代理で出てもらった。翌年帰国してから受賞の感じもうれしさも次第に現実のものとなってきた。有難いとあらためて感じた。選考委員に料理研究家の辻静雄氏がいらして、私の著書を強く推薦して下さったとのこと、また選評も書いていただいている。辻氏はかねてその著書を愛読し敬愛していたので、ことのほかうれしかった。それに加えて何と言ってもサントリー文化財団の方々と、そしてそのつながりで様々な分野の学者や文化人と知り合うことができたことも得難い経験である。また1991年から2006年まで学芸賞社会・風俗部門の選考委員を務めさせてもいただいた。選考委員会だけでなく他の研究会や委員会などに出席してもサントリー文化財団が主宰される集会や会合は実に楽しい。ある種精神が自由になるというのか、活発なとらわれない意見の交換がある。いまの日本で他に代わるもののない文化活動である。学芸賞に象徴されるのは、そうした活動の成果である。

40周年はおめでたいに違いないが、私としては改めてここでこれから先さらに、ますます活発に、その活動を展開していただきたいと心からお願いしたい。

*『サントリー学芸賞選評集』は下記サントリー文化財団Webサイト内にてe-pub形式でご覧いただけます。
https://www.suntory.co.jp/sfnd/prize_ssah/list.html

青木 保(あおき たもつ)
国立新美術館館長

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