アステイオン

地域文化

地域文化が日本社会に与えるヒント

2019年10月14日(月)
長尾雅信(新潟大学人文社会科学系准教授・地域文化の未来を考える研究会メンバー)

ダイバーシティ(多様性)が叫ばれる世である。地域文化活動はその名から縁遠いようでいて実は違う。各地に目を向ければ、愛好の士の集まりには異なった価値観、職業、年齢、性別の人たちのつながりが生まれてきた。ゆるやかなつながりを志向する地域では、近年着目されている関係人口を意識している。比較的時間の融通が利く大学生、さらには観客も活動を支えるパートナーとして捉えている。その人たちとの関係性を深める鍵。それは人手が足りないから外から人を連れてくるのではなく、楽しいことをもっと面白くするための知恵と出会うという意識、その人たちと楽しいことを分かち合うという姿勢のようだ。ダイバーシティとインクルージョン(包摂)は一対であることを学ばされる。

あらためて地域文化活動の現場からの学びをふり返ると、まわりに流されず身の巾手の巾でいること、何より楽しむことを原点に据えることがその健やかな循環を生み出しているのだと気づかされる。

ここで研究会のこともふり返ってみたい。多くは初対面であったメンバーは魅力的な人ばかり。各分野の気鋭の学者、地域づくりや郷土芸能の現場を知悉する方々、生き生きとした財団事務局。男女のバランスもよく、多様性に満ちた構成であった。交流を重ねるにつれ、皆さんの誠実で陽気な人柄にも引きつけられていった。

現場でのインタビューでは、地域文化の担い手の皆さんの話に真摯に耳を傾け、課題については共に悩み、その場で解決の糸口が出せなければ、後日レポートでフィードバックをする。そのクオリティ、締め切りを確実に守る姿勢には背筋を伸ばされ「生半可なものは出せない」という意識が共有されていた。

研究会の理念の共有と巧みな場づくりも印象深い。飯尾先生から提示された地域文化の魅力と危機感の解題は、各々の研究領域、現場に通底するところがあり、意識をそろえることに繋がった。御厨先生の一言も効いた。「これはね。小島さんの引退興行なんだ」。長年サントリー文化財団において、地域文化を支え、ともに歩んでこられた事務局の小島女史。彼女との交流を深めるにつれ、このことを意気に感じないわけにはいかなかった。

場づくりにおいてはクラシック愛好家である飯尾先生のマエストロぶりに、メンバーはいつも感銘を受けていた。現場でのインタビューには研究会と財団の事務方を入れると、多い時で15名ほどで伺う。いくら財団との信頼関係があるとはいえ、この数ではインタビュイーも物怖じや警戒の念を抱きかねない。そこにあって飯尾先生はやわらかく現場の方々の声に耳を傾け、相槌を打たれ、時につっこみをいれながら、話し手の心をひらいて下さった。話しやすい場が整えられたころ「さあ皆さんいかがでしょう」という質問の促し。別れ際には聞き手も話し手も満足の表情が浮かんでいた。

PAGE TOP