アステイオン

サントリー学芸賞

『サントリー学芸賞選評集』刊行記念企画vol.4 自由で闊達な社交の場を

2019年03月22日(金)
河野通和(ほぼ日の学校長、編集者)

ちょうど受賞が決まったというニュースを、藤原さんがたまたま披露する場に居合わせました。ある作家が毎月自宅で開いていた文人サロンのような勉強会です。そこには作家、編集者ら20人ほどが集まっていましたが、誰もがこの野心的な、ユニークな賞の誕生に心を動かされた様子でした。

似たようなことで思い出すのは、塩野七生さんです。ご自身も書いておられますが、ある時、山崎正和さんに「あなたの作品はどの賞からも少しずつずれている。賞には縁遠いかもしれないね」と言われたことを、粕谷さんと私に苦笑しながら語ってくれました。その塩野さんはほどなく1981年に、『海の都の物語――ヴェネツィア共和国の一千年』で受賞します(「思想・歴史部門」)。選考委員の谷沢永一さん(関西大学教授・国文学)が評しています*2。

<既に毎日出版文化賞を受けて評価の定着した著者に、尚おいま改めて本賞を贈る我等選考委員の微意は、第一に塩野七生氏の飛躍的な成熟に寄せる讃嘆であり、第二に本書を卓抜な現代日本論としては、必ずしも未だ認知されていないかも知れぬ読書界への、僭越ながら熱い思いを籠めての推挙である。>

誕生から40年。サントリー学芸賞が築き上げてきた実績と貢献は、いまさら言うまでもありません。まさに「賞を存続させる」ことを見事にやり遂げた好例です。

昨今は出版界が縮小し、かつて論壇と呼ばれた言論空間も明らかに衰微しています。世界的な傾向として、言論の分断や、フェイクニュースが「ことばの危機」として語られます。そういう厳しい状況になればなるほど、一層必要とされる知の役割があります。幸いなことに、そのための幅広い人的ネットワークを、サントリー文化財団は40年にわたって培ってきました。

40周年を機に、財団設立当初の夢をさらに充実させるべく、「<知>をつなぐ、<知>をひらく、<知>をたのしむ」の新たなコンセプトのもとで、息の長い事業にさらに邁進していただきたいと願います。

*1、『舞台をまわす、舞台がまわる――山崎正和オーラルヒストリー』(中央公論新社、2017年)
*2、サントリー学芸賞選評からの引用は原文ママ

*『サントリー学芸賞選評集』は下記サントリー文化財団Webサイト内にてe-pub形式でご覧いただけます。
https://www.suntory.co.jp/sfnd/prize_ssah/list.html

河野 通和(こうの みちかず)
ほぼ日の学校長、編集者

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