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テクノロジー

Society 5.0におけるデザイン力

2018年06月15日(金)
黒川博文(日本学術振興会・同志社大学政策学部 特別研究員・2015年度 鳥井フェロー)

こうしたAIとIoTを組み合わせたのが、Society 5.0である。一般にIoTはInternet of Thingsと理解されているが、栄藤氏は通信を伴うデジタル化(ICT)にドメイン技術(OT: Operational Technology)が結合したものがIoTであると理解している。ドメイン技術とは、各産業特有の技術のことである。AIとIoTの結合により、これまでコンピューターとは無縁だった非ICT産業の自動化・自立最適化が進むことがSociety 5.0の本質だ。しかし、日本においては、ICTは外注するものという産業構造になっているため、同一企業内でICTとOTを全体として設計できる人材がいないことが課題だということだ。また、IoTの技術を入れて自動化していくときに、自動化のデザイン、投資対効果(ROI)の仮説検証、実装というプロセスを行う必要があるが、投資対効果の仮説検証も行えるエンジニアの存在が稀有であることも課題になっているとのことである。

現在、AIによる定型業務の自動化に加えて、AIによるプラットフォーム革命(サイバー空間と実空間の統合最適化)が起きようとしているとしている。ネット上(サイバー空間)で注文をし、ロボットが商品を梱包し、ドローンによる配送(実空間)を行おうとしている企業がある。注文以後、一切、人が介在しないといというところまで現実は進みつつある。

将来、AIによる社会システムの変革が起きるのではないかとAI研究者たちは議論している。シェアリングエコノミーが進み、モノの所有から共有へとなり、資本主義そのものが変化するのではないか。雇用のフリーランス化が進むのではないか。交通や物流の新たなシステムが出てくるのではないか。社会意思決定システムが変わり、代議士が要らなくなるのではないか――と。

このようなときに、社会システムをデザインする能力が大事になってくる。自動走行の車をどうやって設計していくかではなく、都市の中に自動走行車をどのようにして組み込んでいくかという社会システム全体を設計するという議論が重要であり、そのような能力が大事になってくる。ここでのデザインとは、ある制約条件のもとで最適なシステムを設計することを指す。AIと人間の関係性を所与としたうえで、それらを満足した社会システムの組み合わせを考える能力が大事なのだ。

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