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台湾

台湾で見たスコットランド独立住民投票

2014年11月07日(金)
遠藤 乾(北海道大学大学院法学研究科・公共政策大学院教授)

georgeclerk-iStock.

2014年9月18日、世界中が注目する中で、スコットランド独立を問う住民投票が行われた。その結果、84.59%もの高投票率を記録し、44.7%対55.3%で独立は否決された。

この結果の分析は、アッシュクロフト卿によるサンプル調査などですでに部分的に行われており世代や階級が投票行動に与えた影響が示唆されているが(http://lordashcroftpolls.com/2014/09/scotland-voted)、今後、ひろく思想や制度の背景要因にいたるまで、より詳細になされるであろう。

ここでは少しずらした角度から、その世界的な含意を検討してみたい。特に、投票当時筆者が滞在中で、珍しくスコットランドへの注目が高まった台湾からその現象を眺め、東アジア地域にとってそれが持つ意味を考えてみることにする。

いうまでもなく、台湾とスコットランドでは、土台となる状況が違う。台湾はすでに事実上独立しており、22の国々に中華民国として国家承認を受けており、独自の通貨や財政を持ち、自らの総統(大統領)や議会を直接に選んでいる。対してスコットランドは、1997年の分権改革で独自の議会を持つにいたり、第一大臣を戴いているものの、その権限はこれまでのところわずかなものにとどまっており、独自に税率を変更する自由は限られている。

外的環境も大きく異なり、台湾には軍事的に強大な中国が隣接している。言うまでもなく、国共内戦の延長で考える中国共産党政権にとって、台湾の独立は党国家の正統性と核心的利益に対する重大な挑戦となる。他方のスコットランドに差し迫った軍事的脅威はない。そして、連合王国(いわゆるイギリス)がスコットランドの独立を認めたくないという意味では中台と変わりないが、それでも連合王国は独立を巡る住民投票を許容する。仮に投票の結果が独立を肯定するものとなっていたならば、平和裡にスコットランドの独立がなされていたであろうという意味では、まるで中台と異なる。

ではなぜ、台湾でスコットランドの投票が注目されたのであろうか。それは、まさに最後の点と関わる。つまり、平和裡・民主的に分離独立を達成する過程が認められるという政治的知恵・手続・環境こそが、はっきりとした台湾独立派からすると憧憬の的であり、その反対派からすると警戒の元なのである。

であればこそ、「一つの中国」の原則を掲げ、北京との接近に積極的(で独立住民投票に否定的)な台湾国民党政府は、スコットランドからの類推を戒めることになろう。9月16日、江宜樺行政院長(首相に相当)は、国会に当たる立法府にて、スコットランド=連合王国関係について言及し、台湾=中国関係とは「全く別」の問題であり、「台湾が中華民国という独立国の立場をいかに維持できるかを常に考えている」と言明した(共同通信、9月16日付)。ここでは、台湾の独立は事実上すでに達成されているという認識がなされ、それをあえて住民投票で明白にする必要を認めないとの立場が見てとれる。

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