英紙フィナンシャル・タイムズの著名コラムニスト、ギデオン・ラクマンが年末に予想したように、ドイツの首相メルケルは深刻化する難民問題で与党内の反発を受け、今年中に退陣するのだろうか。確かにメルケルには気弱なところがある。債務危機最中の2011年11月、フランス・カンヌで開かれた主要20カ国・地域(G20)サミットで、メルケルは突然、泣きだした。

 カンヌ・サミットでは、ユーロ圏の債務危機を鎮めるセーフティネットをさらに強化しようと、イタリアが国際通貨基金(IMF)の財政再建計画を受け入れるのと同時に、ユーロ圏はIMFの特別引出権(SDR)から1400億ユーロをつぎ込んで欧州金融安定化基金(EFSF)を拡充するか否かが議論されていた。

 米大統領オバマから「ドイツはユーロ圏のSDRの4分の1を持っている。ドイツが(欧州金融安定化基金へのSDR拠出に)同意しなければ、EUは信用を失う」と迫られ、メルケルはこう言って泣きだした。「イタリアから(IMFの財政再建計画受け入れについて)何の確約も取れていないのに、そんな大きなリスク(中央銀行・ドイツ連邦銀行の頭越しにSDR拠出を独断で決めるリスク)は取れない。私は(政治的な)自殺行為はしない」(当時のFT紙より)
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 煮ても焼いても食えないイタリアの首相ベルルスコーニ(当時)と抱き合い心中するのを避けるため、メルケル最後の手段は「オンナの涙」だった。サミットの鍵を握るのはオバマと、ホスト国フランスの大統領サルコジ。メルケルより懐の深いこの2人だからこそ、涙は効き目があった。今、メルケルはあの時以上に泣きたい気持ちだろう。

EU離脱をちらつかせるイギリス

 しかし今回の危機は、泣いても乗り越えられないほど深刻だ。昨年、ドイツにたどり着いた難民は110万人。ニューイヤーズ・イブ(大晦日の夜)にケルンで起きた集団性的暴行事件にアルジェリアやモロッコなどの難民が関わっていたことから、難民に門戸を開いたメルケルへの批判は一気に高まった。
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 ロシアの大統領プーチンがシリア・アレッポへの空爆を強化し、さらなる難民がトルコ国境に押し寄せる。EU離脱の国民投票を振りかざし、出稼ぎ移民への社会保障制限などの受け入れをEU首脳に迫る英首相キャメロンのやり方を見て、「ゴネ得が許されるのなら、オレ達も」とハンガリーやポーランドなど難民受け入れに消極的な東欧諸国が手ぐすねを引く。

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 与党・キリスト教民主同盟(CDU)、キリスト教社会同盟(CSU)からは「内戦を逃れてきた難民であっても亡命申請者であったとしてもドイツが20万人以上の難民を受け入れるのは無理だ」という現実的な批判が起こり、国境管理の強化を求める声が強まっている。