ただ、成立した当初からココムのなかでは何を「戦略物資」に含めるかをめぐってアメリカとヨーロッパ各国との間ですったもんだが続いた。ヨーロッパは経済復興のためにソ連や東ヨーロッパとの貿易を拡大したかったが、ソ連を締め上げたいアメリカは幅広い品目を禁輸にしようとしたからである。

両者の意見が鋭く対立した品目の一つが天然ゴムである。1951年にイギリスはソ連との間で、英領マラヤ産のゴムをソ連に輸出し、その見返りに穀物を輸入する契約を結んだが、天然ゴムは戦略物資だと主張するアメリカはこれを止めようとした。結局、ソ連向けのゴム輸出は止められなかったが、中国は朝鮮戦争で国連軍と対峙していたため、国連決議によって中国に対するゴム輸出が止められた。ところが、中国は国連未加盟だったセイロンから米とのバーターでゴムを輸入し、国連(アメリカ)の禁輸の裏をかくことに成功した(Adler-Karlsson, 1968: 42, 205-206)。

1984年に起きた、西ドイツ産のデジタル式電話交換機のハンガリー向け輸出をめぐるアメリカと西ドイツの対立も興味深い。アメリカは交換機は軍事転用の恐れがあるとして輸出を拒否したが、これに怒った西ドイツの経済大臣は、この程度の機械がソ連の軍事力に転化するというのであれば、アメリカのソ連に対する小麦の輸出の方がよほど問題である、なぜならアメリカの小麦がソ連兵を養うからだ、と反論した(山本、1987)。

理屈度外視のハイテク企業いじめ?

このように対立が絶えなかったとはいえ、東西冷戦が続いていた間は、何が「戦略物資」であるかをめぐって今よりもまともな議論が交わされていた。

それに対して、いまアメリカがやっている中国のハイテク企業いじめには、いったいどのような戦略的意味があるのか説明がなされていないし、説明することもできないのではないだろうか。

例えば、クアルコムのICやグーグルのアプリは軍事転用も可能だから外国の軍用品メーカーへの輸出を禁じるというのならば理解できる。中国は反抗的だから中国にクアルコムのICやグーグルのアプリを輸出するのは全面禁止だ、というのも米中関係を決定的に悪くするのは必定ではあるものの、理解可能である。

だが、ファーウェイに売るのはだめだが、ファーウェイと同じ中国の民生用スマホメーカーであるシャオミやオッポやZTEに売るのは特に規制しないというのでは道理に合わない。

5Gスマホは軍事転用可能な製品だから中国に持たせたくないのだろうか。それならばファーウェイだけでなく、シャオミ、オッポ、ZTEに対しても同様の規制を行い、さらにアップルの中国向け輸出も禁止し、サムスンの中国向け輸出も韓国政府に圧力をかけて止める必要があるだろう。

世界最新鋭のIC製造技術を持つTSMCの能力が利用できなくなるのは、たしかにファーウェイにとって大きな痛手である。中国国内にもICの製造を受託する企業がSMICなどいくつかあるが、SMICの能力はTSMCより5年ぐらい遅れている。ファーウェイはSMICなど中国国内の製造能力を使って高度なスマホ用ICを作る努力を行うだろうが、このままTSMCへの製造委託ができないと、中高級スマホの分野で競争力を失う可能性が高い。

輸出管理で中国に勝てるか?