そのファミリードラマの結末
グレイザーがそんな緻密な脚本で狙っているのは、たとえば、サバービアを舞台にしたジョン・チーヴァーの短編小説のような物語を語ることだ。郊外で夫婦が幸せに暮らしていたが、組織に帰属する夫は転勤が避けられず、家に執着する妻との関係が悪化し、夫婦はその先どうなるのか、といった物語だ。
本作の塀で隔てられたふたつの世界の対比が生み出す異様な空気や緊張が、ルドルフの転属によって舞台が変わっても失われず、むしろ増幅されていくのは、夫婦のファミリードラマと描かれないホロコーストが一貫して対比されつづけるからだ。
そのファミリードラマの結末は気になるところだが、グレイザーは、歴史を捻じ曲げることなく、ハッピーエンドにまとめてしまう。というのも、転属後のルドルフには、彼の後任としてアウシュヴィッツの所長となったリーベヘンシェルが降格されたときに、再び所長に就任した事実がある。本作ではそれが、家族が再びひとつになることを意味する。
グレイザーが、そんなファミリードラマと決して切り離せないものとして、われわれに想像させるホロコーストには、言葉にし難い恐怖がある。
『関心領域』
公開:5月24日より新宿ピカデリー、TOHO シネマズ シャンテほか全国公開
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