「自分を養えないような男と付き合うのは時間の無駄」

しかし、本作で最も重要な位置を占めているのは、男性モデルのカールだ。彼の存在は、ここまで書いてきたエピソードのインパクトに比べると地味に見えるが、彼の一挙一動からは目を離すことができない。

本作の導入部では、とある高級レストランで食事を終えたヤヤとカールのカップルが、支払いをめぐって口論を始め、それがタクシーの車内を経て、ホテルの部屋までつづいていく。カールは、売れっ子のヤヤが彼の何倍も稼いでいるのに、男というだけで彼が食事代を払うことに疑問を覚え、ふたりが対等な関係になることを望んでいる。

ホテルに戻ったヤヤは、そんなカールに本音を明かす。彼女は、自分が働けなくなったときに、自分を養えないような男と付き合うのは時間の無駄で、モデルを引退するのはトロフィーワイフになるときだけだと断言する。彼女にとってカールは、インフルエンサーのアシスタントに過ぎない。これに対してカールは、自分にホレさせてみせると宣言する。

そんなやりとりを踏まえると、クルーズにおけるカールの振る舞いや反応のひとつひとつに意味があるように思えてくる。

執拗に男性性とプレッシャーを掘り下げる

彼は、あるクルーが甲板で上半身裸になって煙草を吸い、ヤヤに気安く挨拶したことで不愉快になり、密かにスタッフの責任者にそれを報告する。それから間もなく、クビになったクルーが下船する様子をたまたま目にした彼は、どこか落ち着かないような表情を見せる。人気のインフルエンサーであるヤヤのおまけに過ぎない彼が、乗客の特権を行使すれば場違いな気もしてくることだろう。

カールは、クルーのことを報告したついでに、船内で販売されている指輪を見せてもらうが、その値段を聞いて沈黙するしかなくなる。そんな彼は、富豪が自分の写真を撮ってもらっただけで、お礼に船内で販売しているロレックスをプレゼントすると言い出すのを目にして、さらに委縮していくことだろう。

カールの変化は、船室でヤヤとふたりだけになったときの奇妙な振る舞いに表れている。彼は、夫が外出中に家に入り込んで、妻を誘惑するプールの掃除係を演じながら、ヤヤに迫る。しかも、カールではなくなった彼は、どこか解放されているようにすら見える。

そして、このようにカールの変化がつぶさに描き出されることによって、無人島のドラマが別の意味で興味深くなる。なぜなら、カールはイケメンであることから主導権を握るアビゲイルに指名され、救命艇のなかで彼女と夜を過ごすことになるからだ。

そこで思い出されるのは、ヤヤがカールに明かした本音のことだ。ある意味でカールは、ヤヤの本音を実行しているともいえる。カールのそんな行動は、クルーズにおける彼の変化と無関係ではない。オストルンドは、『フレンチアルプスで起きたこと』(14)や『ザ・スクエア〜』とは異なるアプローチで、これまで以上に執拗に男性性とプレッシャーを掘り下げている。

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