さらに、ゲイのコミュニティにも注目しておくべきだろう。大恐慌以前から、ブロードウェイで働く俳優やボードビルの芸人たちが、タイムズスクエアに1本で出られる便利さから、ジャクソンハイツに住むようになり、彼らの多くがゲイだったことから、コミュニティが形成されていった。

人々を結びつける草の根運動の積み重ねが作った独自の発展

ジャクソンハイツの成り立ちには、他の町とは異なる特殊な背景があり、多様な移民が暮らすようになった。しかし、それだけでは、バラバラなコミュニティの寄せ集めであり、多様性を誇れるような町にはならなかっただろう。ワイズマンの関心は明らかにそこにある。

先に一部を引用したドロム議員のスピーチは、それを示唆している。この場面では、まず交差点の"フリオ・リベラ・コーナー"という案内標識が映し出され、ユダヤ・センターにおける彼のスピーチに切り替わり、このように話が始まる。

「フリオが殺されたのは1990年7月1日でした。警察は何もしませんでした。我々は違います。我々は立ち上がり、町の人々を組織しました。少しずつ活動を広げていき、人々と繋がっていきました。特にラテンアメリカの人々と。なぜならフリオが殺された理由は、彼がゲイやホームレスだったからではなく、人と違えば誰でもよかった。たまたまゲイだっただけです。この町でゲイ・パレードが成功したのは、ラテンアメリカのコミュニティのおかげです。殺人犯の手配書を貼っていると、"フリオのためか"とスペイン語で聞かれました。一体感が生まれたんです」

ワイズマンは、単に町の多様性を映し出すだけではなく、住人たちの草の根的な活動を積極的に追いかけている。町には様々なグループがあり、ゲイやトランスジェンダーに対する差別や嫌がらせに抗議したり、移民の権利を守るためにニューヨーク市が発行するIDの普及を促進したり、交通事故を防ぐために減速区間を設けるための陳情を行うなど、その活動は多岐にわたる。この町は、人々を結びつける草の根運動の積み重ねによって独自の発展を遂げてきた。

BID(経済発展特区)によって新たな危機にさらされている

そんな町は今、BID(経済発展特区)によって危機にさらされている。本来ならBIDは、住人や商店主にとって有益な活性化プロジェクトのはずだが、ここでは彼らの意向を無視した一方的な再開発になっている。商店主たちを集めた会合で、BIDの危険性を訴える家主のスピーチには、こんな言葉がある。

「僕らが作ったジャクソンハイツを、彼らが壊しよそ者を住まわせる」「ジャクソンハイツは多様性の町、いろんな地域の人々だけじゃなく、ラテン系の町だ。なぜなら小さな店や屋台が、露店商がジャクソンハイツを作ってる。誰でも言うことは、こんな店やレストランはこの町にしかない。ここは本物だ。それをBIDが壊す」

BIDに反対する動きは、この町の新たな草の根運動に発展しつつあるように見える。

《参照文献》

"From Exclusionary Covenant to Ethnic Hyperdiversity in Jackson Heights, Queens"by Ines M. Miyares (The Geographical Review, October 2004)

『ニューヨーク、ジャクソンハイツへようこそ』

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2018年10月20日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショー