ヘンリーの回想録とこういった現状を見ると、カミラはシンデレラや白雪姫に出てくる典型的な「意地悪な継母」である。あまりにもそのものなので、指摘するのも躊躇するくらいだ。こういった寓話では、主人公が命を失わないためには、継母の影響が及ばない場所に逃げるしかない。つまりヘンリーがやったことは、シンデレラや白雪姫と同じことなのである。そう思えば、すべて納得できる。
ヘンリーとメーガンが無垢な白雪姫だと言っているわけではない。彼らには彼らなりの欠陥があり、失敗もおかしただろう。しかし、読者は肝心なところを忘れてはならない。それが誰であれ、人は安全に生きる権利があるのだ。12歳のヘンリーは母を救うことができなかった。けれども、30代後半になったハリーは12歳の時にできなかったこと、つまり「自分が愛する人を守る」ことを実行したのだ。兄や父、そして祖国を失うことを覚悟で。それは、尊敬に値する行動である。
執筆を援助したのは、アンドレ・アガシの素晴らしい回想録『Open』(拙著『ジャンル別洋書ベスト500』に収録)でゴーストライターを務めたJ. R. モーリンガーである。ユーモアや呆れるような告白を交えたヘンリーらしさを失わずして、時には詩的とも言えるシーンを再現しているのは、モーリンガーの手腕であることは間違いない。