<CMを作るには、確固としたマーケティング戦略が不可欠。ナイキジャパンのメッセージはブランドの価値観に共感する購買層には届いている>

ナイキジャパンが11月28日に公開したCM「動かしつづける。自分を。未来を。」がネット上で議論になっている。在日コリアン、黒人とのミックス、学校でいじめの対象になっている3人の少女がそれぞれに「他人と異なる自分」の苦しさや悩みをつぶやく。

「我慢しなきゃ」「気にしないふりしなきゃ」と自分に言い聞かせる3人に共通しているのは、サッカーへの情熱だ。「いつか誰もがありのままに生きられる世界になればいいのに」と思うが、最後に「でも、そんなの待っていられない」と自ら世界を変えていくことを決意する。

社会から浮いたり、仲間外れになっている人たちを応援する趣旨だが、「日本人の多数が差別をしているような内容で不快」とか「日本をおとしめる内容だ」といった批判的なコメントが殺到した。

その分析記事は多くあるが、欠けているのは「バイヤーペルソナ」の視点だ。バイヤーペルソナとは、米マーケティングソフト企業ハブスポットが作った用語で、「人口統計学の属性情報に加えて個人的な背景などの要素を全て含めてターゲットの人物像を想定し、作成された半架空のターゲットとなる理想顧客像」を意味する。

漠然とした顧客像ではない。実際のデータを基に、名前、年齢、性別、学歴、職業、年収、住んでいる場所(都市部か地方か)、趣味、性格、オンライン行動、購買行動などを含めた架空の人物を作り上げるところまで徹底する。

企業がCMを作るときには、確固としたマーケティング戦略がなければならない。その戦略を練る上で、バイヤーペルソナを見極めることは不可欠だ。

2017年に公開された牛乳石鹸のCM「与えるもの」編はその見極めに失敗した例だ。一家の父親が、自分が子供だった頃の父親像と比べて「時代なのかもしれない。でも、それって正しいのか」とモヤモヤし、上司に叱られた部下と酒を飲み励まして帰宅すると妻から嫌みを言われる。でも、風呂に入って牛乳石鹸で洗い流した後で妻と仲直りするという内容だ。

主要購買層は誰なのか?

「このお父さんの気持ちも分かる」「よくできた映像じゃないか」という好意的な意見があったが、問題の本質を見落としている。牛乳石鹸のバイヤーペルソナは、息子の誕生日の朝、夫に「ケーキを買ってきて」と頼んだ妻なのだ。

妻は仕事をこなした後で、同僚の冷ややかな視線を我慢して息子の幼稚園のお迎えのために早退。慌ただしく買い物を済ませて誕生日のデコレーションをし、夕食を作り、夫を待っていた。

しかし夫はケーキとプレゼントを買ってくるだけの簡単な役割で自己憐憫(れんびん)に陥り、不機嫌を家に持ち帰ってきた。この映像はそんな夫の気持ちに寄り添ってしまったから、バイヤーペルソナである女性たちから手厳しく批判されたのだ。

米ナイキのマーケティング成功例
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