『The Truth We Hold』は、こういったハリスの生い立ちや経歴、そして彼女が取り扱ってきた社会経済的な問題について説明する本であり、自己紹介書としてはコンパクトでわかりやすい良書といえるだろう。
しかし、彼女をまったく知らない人を魅了するような内容かというと首を傾げてしまう。というのは、ここに描かれているハリスはあまりにも優等生すぎるのだ。実際に努力家で優等生だったというだけではない。
例えば、本書にも出てくるカリフォルニア州でせっかく合法になった同性婚が2008年の住民投票により覆されたケースだ。「州憲法修正案(Proposition 8)」は「結婚は男女間のものだけ」とするものであり、これを大幅に支持したのが黒人票だった。ハリスがLGTBQの権利のために戦ってきたのは事実だが、彼女はこの問題の背後にあったこの「語りにくい事実」についてはまったく触れていない。
この住民投票はバラク・オバマが大統領候補として出馬した記念すべき選挙と同じ日だった。黒人として初めての大統領を生み出すために、史上最多数の黒人が投票所に向かい、バラク・オバマに票を投じた。だが、皮肉なことに、その彼らの大部分が同性婚を禁じるProposition 8に票を投じたのである。これが結果を左右した。黒人コミュニティからは「経済や社会正義の問題のほうがLGBTQの問題よりはるかに重要」という主張もあったようだが、最大の理由は彼らが属している教会の教えにあったとみられているる。それ以外にも、異なるマイノリティーの間での不信感や不満など複雑な要素が絡んでいるようだ。
この問題に触れるのは政治家として命取りだと思うし、私が彼女のアドバイザーであっても「触れるな」とアドバイスしていたと思う。だが、これは「リベラル対保守」の戦いではなかったのだ。だからこの問題に関してはやはり美しい表層だけを説明している印象はぬぐえなかった。
それだけでなく、検事として、政治家としてのハリスの憤り、戦い、敗北、勝利、結婚や家族についても、あまりにも完璧で、美しく添削編集されたパンフレットのような感じがしてならない。ハリスに好感を抱き、2020年の本命とみなしている私ですらそう感じるのだから、彼女のことを知らない人がこれでハリスの人となりにぞっこん惚れ込むとは思えなかった。
できればもう少し脆弱なところ、人間くささを出しておいたほうがいいのではないか。そんな老婆心を抱いた「自己紹介本」だった。