ブッシュ政権は、侵略を正当化するために、「イラク国民をフセインから救った」とアピールし、イラクでのイスラム過激派の台頭に「やはり、アルカイダがいたではないか」と指摘したが、エンゲルは「サダム・フセインは、残忍な暴君だった。だが、アルカイダ的なイスラム過激派がイラクに来たのは、アメリカが侵略したからだ」と言う。

 ブッシュがイラクでサダム・フセインが守っていた腐った豪邸を倒してしまったために、現在最も恐れられるISISが誕生する土壌を作ったというのだ。

「現状維持」を打ち壊し、イラクに侵略したブッシュ政権には言い訳の余地はない。

 だが、アメリカのジレンマは、軍事介入をしても、しなくても、世界から批判され、恨まれるという部分だ。

 オバマ大統領の優柔不断な政策が良い例だ。

「オバマは、民主主義の名のもとに、カイロでの蜂起を後押しし、ムバラクに背を向けた。リビアでは 反政府グループを軍事支援した。それなのに、シリアでは(助けを求められても)決断を躊躇した。約束は破られ、信頼は失われた。」とエンゲルは言う。

 つまり、ソーシャルメディアで盛り上がったエジプトの革命で、民主主義を応援するという名義でアメリカの長年の友人だったムバラクを見捨てて革命を支援したオバマに対し、中東のリーダーたちは「アメリカと交渉して妥協してきたのに、いざとなったら守ってはくれない」と信頼を捨てたのだ。一方、エジプトとリビアを見てきたシリアの反政府グループは、助けてもらえると信じていたオバマから無視され、失望した。政府と反政府、どちらの側もアメリカから「裏切られた」と思い、恨みを抱いたのだ。革命後のエジプト、リビア、シリアは内戦が続く地獄のような無法地帯になり、「現状維持」の政策で続いてきた脆弱な中東とアメリカの信頼関係はこうして失われた。

 イスラム教の内部の対立は14世紀にもわたる歴史があり、アメリカが作ったものではない。ISISを作ったのもアメリカではない。しかし、軍事介入に積極的なブッシュと消極的で優柔不断なオバマが中東問題を悪化させたのは事実なのだ。

 戦後に平和主義を打ち出した日本は、他国から軍事介入を求められることはない。だからある意味、現在の中東問題などに関しては、傍観者として自由な批評家でいられるわけだ。

 だが、もし「政権交代」を求める反政府派から介入を求められ、その決断の責任を将来ずっと背負わねばならないとしたら、日本はどんな選択をするのだろうか?

そんなシミュレーションを考えながら読んでいただきたい本だ。