知的階級のリベラルな親なら、「Wyattが女の子になるのを応援しよう」とすんなり思うのだろうか? 保守的な親なら「男らしくしろ!」と怒鳴りつけて人形を取り上げ、子どもが泣いて拒否しても激しいスポーツを無理やりやらせるのだろうか?

 ジェンダーの問題は、「共和党vs民主党」「保守vsリベラル」といった政治的なアジェンダになりがちだ。

 また、最近元オリンピック選手のケイトリン(ブルース)・ジェンナーが「自分はトランスジェンダーだ」とカミングアウトしたことが話題になったが、こうしたカミングアウトは、トランスジェンダーを特異な存在として揶揄したい人々の好奇心を掻き立てるだけで、一般のトランスジェンダーへの理解を深めるものではない。

 Maines一家の戦いを記録した『Becoming Nicole: The Transformation of an American Family』は、政治的な主張をするための本でもなく、ケイトリン・ジェンナーのカミングアウトのような扇情的なものでもない。ごく普通の夫婦が、政治的な正しさや宗教観などとは関係なく、「親としての子どもへの愛」だけをコンパスに、迷いながら「わが子にとって最良の」道を選び通した胸を打つ実話だ。

 ピューリッツァー賞を受賞したこともあるワシントン・ポスト紙の記者が4年かけて書いただけあって、生物学的な解説や歴史的な考察もあり、大変に読み応えのあるノンフィクションだ。