今年9月に発売された『Symphony for the City of the Dead』は、ショスタコーヴィチの交響曲第7番をテーマにして、レニングラード(サンクトペテルブルク)とその市民が辿った悲劇的な歴史を紹介するYAノンフィクションだ。

 YA(ヤングアダルト)とは、主に高校生の読者を対象に書かれたアメリカ独自のジャンルで、映画ヒット作『トワイライト』や『ハンガー・ゲーム』の原作もこのジャンルに属する。アメリカの成人向けの本はページ数が多く、内容も複雑だが、YAでは、ティーンが手にとりやすく読了しやすいように、ページ数も少なめで、使う単語や文章表現もわかりやすく工夫されている。成人読者も多く、人気のジャンルだが、日本のいわゆるライトノベルとは異なる。フィクションでは主人公が読者と同じくティーンに設定されているが、ノンフィクションでは「成人向けの本よりも読みやすい」ところに焦点が絞られている。

『Symphony for the City of the Dead』は、YAノンフィクションらしく写真が多いので、レニングラードの悲劇がひしひしと伝わってくる。ショスタコーヴィチという天才音楽家の人生を通して、複雑なロシアの歴史を学べるのが本書の素晴らしいところだ。ロシア革命への市民の期待と、革命後に政府によって悲劇に追い込まれた多くの知識人や 芸術家のエピソードは、ドライな歴史書を読むよりもずっと胸にこたえる。

 ロシアとドイツの波乱に満ちた関係は、その間にある国々を翻弄してきたが、それだけでなく、ロシアとドイツそれぞれの国民を犠牲にしてきたのだ。特に、政府の歪んだ信念が自国の有能な人々を抑圧し、惨殺してきたのは、日本人の私たちが未来を考えるときに目を背けてはならない歴史だと思う。

 もうひとつ読者にとって興味深いのは、ロシア革命後のアヴァンギャルド芸術だ。裕福な層が愛したクラシックな芸術を否定する未来的な新しい芸術を、社会主義政府はプロパガンダとして活用した。体制に反発する自由さを謳歌するようなモダニズムが、もっとも体制に近い存在となり、やがて内在的に行き詰まり、今度は抑圧の対象になり、崩壊していった経緯は印象的だった。

 ティーン向けにしては重い本だという印象だが、若い時期にこそ読むべき本だとも言える。