新宿を舞台にした「Transit Station - 乗換駅」のシリーズは、そんな大西を新たな境地に導き、世界的に大きな評価を得るようになった作品だ。会社員である大西自身が通勤のため毎日通過する新宿の時間・空間に絞ったものだ。
そこで出合う普通の日常とは違った、だがそれもやはり東京の日常ではある光景――朝の酔っ払い、あるいはヤク中、ヤクザがらみの喧嘩、そのすぐ近くを何もなかったかのように通過している新宿駅のサラリーマンの群れ――そうしたものに枷(かせ)をはめ、コンセプチュアルなストリート写真として撮影したものである。
大西自身がサラリーマンであるだけに、それは彼の目を通して、新宿、いや東京のサラリーマンが心の中で感じていることのメタファーにもなるのである。
さらに彼は、ストリート写真を通して、また新たに自らの写真を変えようとしている。テーマとコンセプトだけでは自身の想像の範囲を超えられないと思う、と彼は語る。同時に、これは迷いでもあるのだと。
「そこからどうすればいいのか分からず、まずは1年間、今まで以上の枚数を撮るということをしてみた。また『撮影に行く』という意識から『そこにいるから撮る』という意識に変えた。それらを通じて、撮ったものの総体からセレクトして外に出すというプロセス全体をスナップ行為として捉え、最終的に出てきた写真が自らを映しているものと考えるようになった」と、彼は言う。
「......ただ、このままでは良いと思えず、次のステップを模索中」
とはいえ、彼は本能的に次のステップ――あるいは写真の本質――を分かっているのかもしれない。
このブログで幾度も述べてきたように、ストリートフォトグラフィーを含むドキュメンタリーフォトグラフィーには2つの属性がある。1つは、客観的に目の前の要素を見つめること。もう1つは、自身のメタファーとしての属性だ。その2つが重なり合って、新たな価値観を生み出すのである。
それはある種、脳の働きのようなものだ。論理機能に優れ、過去と未来の感覚を整理する左脳と、現在の感覚認知機能を軸として、周りの環境と自らの感覚機能をシェアしようとする右脳の合体。それが効果的にすさまじいスピードで一瞬にシンクロするとき、人はとてつもない力を生み出す。写真もまさにそれなのである。
今回紹介したInstagramフォトグラファー:
Tadashi Onishi @tadashionishi

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