<これまで20年近くほぼ無名だった写真家マット・ブラックのインスタグラム・プロジェクト"The Geography of Poverty"は、力強くシンプルなスタイルで、アメリカに潜む貧困問題の深さを浮き彫りにする>

 唯一の超大国であるアメリカのもう1つの顔は、格差を作り出してきた貧困大国だ。だが、長年、広大なアメリカをそうした切り口で捉えたフォトドキュメンタリーは存在しなかった。戦前のドロシア・ラングは古過ぎるし、ロバート・フランクの"The Americans"でさえ、1955年から56年にかけて撮影されたものだ(本の出版は1958年)。またフランクの作品は、貧困や格差社会だけでなく、一般大衆の倦怠感も大きなテーマにしている。

 優れた写真家が現れなかったから、ではない。切り口や場所を絞ったフォトストーリーでは、むしろ、彼ら先駆者たちを超えたものもたくさんある――あって当然だ。すでに"The Americans"の誕生から60年近く経った。その間にアメリカはさらに複雑化し、また貧困や格差だけをテーマにしたものでは、読者、あるいはメディアを惹きつけることが難しくなった。費用も非常にかさむ。そのため、多くの写真家が広大なアメリカをもう一度、こうしたテーマで切り取ろうとしたにもかかわらず、挫折してきたのだ。

 今回紹介するマット・ブラックは、そんな状況の中、彗星のごとく登場し、ロバート・フランク以来の大プロジェクトを成し遂げている写真家だ。

 大器晩成型の人である。現在45歳の彼は、過去20年以上の間、貧困、移民、農民の問題を取材してきた。だが、優れた才能があるにもかかわらず、無名に近かった。それが変わったのは、3年ほど前に、自らが育ち暮らしてきたカリフォルニアのセントラル・ヴァレーの貧困問題を、シンプルなキャプションと共にインスタグラムに投稿し始めてからだ。

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 その後、"The Geography of Poverty(貧困の地理学)"というタイトルをつけ、取材範囲を広大なアメリカ全体へと広げていく。同時に多くのメディアが彼のプロジェクトを取り上げ始め、また多くの国際的なグラントや賞を獲得することになる。

カリフォルニア州のアレンスワース。貧困率54%
写真に人口と貧困率を記して