<過激化してテロリストになる可能性がある人に共感的な導きで働きかけようとするイギリスの「プリベント」だが>

最近、イギリスでは「Prevent(プリベント)」が話題に上っている。

多くのイギリス人はまだこれが何なのか本当のところは理解していないし、日本にはこれに相当するものがないので、日本人はなおさら何のことだか分からないと思う。

それは、人々がテロリストになることを防止(プリベント)するために2015年に設立された、イギリスの政府組織だ。テロリストになる人は通常、「過激化の過程」をたどっているので、タイミングよく介入することでこれを防止するのに効果を発揮できるだろうとの考えに基づいている。

過激化は通常、ある程度の時間をかけて徐々に進み、しばしば問題を抱えた若者がはまってしまう。昔ながらの過激化のパターンは、ある人物、もしくはあるグループ(治安当局から監視されているグループの可能性もある)の影響を受けて起こっていたが、近年では自分の家にいながらたった一人で過激派のネットコンテンツを読んで過激化の道をたどる「ローンウルフ(一匹狼)」型がよく見られるようになった。

いずれにしても、過激化していく人は、過激な意見を言うようになったり暴力や武器に興味を持つようになったりといった初期の徴候を示す。当然ながら、これは家族や友人が一番気付きやすい。プリベントに連絡するのも家族や友人であることがとても多い。

とはいえ、若者たちと関わる学校やその他の機関は、何に注意して見守り、いつ介入すべきかを心得ている。

防げなかった2件の残虐事件

プリベントが今ニュースになっているのは、最近の2件の残虐事件で、プリベントがその役割を果たせなかったと見られているからだ。

昨年7月にイングランド北西部サウスポートで3人の子供を刺殺した17歳の少年は、以前にプリベントに通報されていたが、プリベントは彼のことを深刻に捉えていなかったようだ。彼は、テロリスト化すると思われる人物プロファイルには該当しなかった(おそらくジハード主義者というよりは「問題児」と捉えられたのだろう)。

だから今後は、プリベントがあまりに「万人対応型」すぎたのではないか、過激化の徴候がごく限定的な人物だってテロを起こす可能性があることを認識していなかったのではないか、という点について調査が進められるだろう。

この事件は異例なケースといえる。少年はテロ行為を望んだようだが、彼がイデオロギーを持っていたかは判然としない。

もう1つの事件は、2021年に下院議員のデービッド・エイメスが殺害された事件だ。彼を殺害したシリア難民もプリベントに通報されていたが、2、3回の面談しか行われず、緊急性なしと判断され、プリベントが彼の危険性を認識することはないまま殺害事件が起こってしまった。

もちろん、こうした経緯が明るみに出て人々が最初に抱く感想は、「なんだって? 周囲の人が助けを求めていたのに止められなかったの? 当局は知っていたのに何もしなかったということ? けしからんスキャンダルだ!」だろう。なんて恐ろしい事態だ、というわけだ。

でも反論するとすれば、数多くの人(年間およそ7000人)がプリベントに通報されており、限られたリソースでは全てのケースに最大限の緊急性と注意を向けて対応することなど不可能なのだ。家族から通報されるほどの危険人物が何千人も普通に生活しているなんて、さらに恐ろしい事態かもしれない。

教科書にカギ十字を書いていた少年は
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