名シーンはいくつも存在する。たとえば、病気にかかった一心を助けるお金がなく、やむなく日本人がかつて住んでいた街にリヤカーに乗せていくが、かわいそうで結局家に連れて帰るシーン。労働改造所に収容されている一心を助けるために北京に直訴に行くシーン。労働改造所から数年ぶりに帰ってくる一心を何日間も駅で待ち続けるシーンなど......。
とくに実の父親(仲代達矢)が現れて家に訪ねてきたシーンではとっさにアドリブで「ありがとう」と日本語を話したことが印象的だった。養父としての複雑な心境と寂しげな表情に多くの日本人が感動の涙を流した。
実在の養父母の中には孤児を働き手としてしか見ず、いじめた人もいたことは確かだが、山崎が取材した人のように、敵であった日本人の子どもでも愛情深く育て、実の親子のように強い絆で結ばれた人も少なくなかった。
まだ日本で報道される中国情報が非常に限られていた時代、生身の中国人が喜怒哀楽を表現する姿など、ほとんど想像もできなかった日本人が多い(逆も同じだったが)。そんな中、「中国人も日本人も同じ人間だったんだ」「日中の間にはこんな歴史があったのか」ということをこのドラマから学んだ人は多かった。そうした意味で、このドラマは強烈な印象を日本人に残した。
主役を演じたわけでもない朱さんの訃報は、中国ではもちろん、日本のほとんどの大手新聞に掲載された。彼の姿は「古きよき中国の父親像」として、これからも語り継がれることだろう。
[執筆者]

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>
米・イラン戦争で変わる地域紛争の「大前提」/石油危機を恐れるべき理由