母親が罵倒されていても、自室に避難し怯えていた

私にとっても、これは納得できる話だった。高校生の頃に母と衝突した際、勇気を出して自分には親から受けたトラウマがあると思うと明かしたところ、「トラウマという言葉はそれほど簡単に使えるようなものではない」と、あくまで「言葉の用法」として一蹴されたことがあるからだ。何にしても理屈でねじ伏せようとする人だった。

ともあれトラウマを抱えた人は現実的に多く、本書に登場する10人もまさにそれにあたる。しかも『「毒親の連鎖」は止められる』という書名から分かるように、「毒親」に苦しめられた人たちばかりである。文章を通じてそれぞれの道のりをたどると、「普通」ではない環境で育ったつらさが伝わってくる。

突然キレて怒鳴り散らす父親と、おとなしい母親のもとで育ったという関東在住の井上秀人さん(44歳)もそのひとりだ。


「今思うと父は、よく社会でやってこれたなと不思議になるほど、普通ではありませんでした。異常に学歴や世間体を気にしていて、プライドが高く、いつも変なところでキレるんです。家族で出かけたり、外食したりする時なんて、苦痛でしかありませんでした。何時に出かけるって決めても、父が準備できたタイミングで家族の誰かが準備できていないと、決めた時間より前でもブチギレます。外出先でも、何か気に入らないことがあると突然怒鳴り散らすんです。あまりの大声に、他のお客さんも店員さんたちも見ますし、子ども心に恥ずかしくて仕方がありませんでした」(140ページより)

父親は家の中でも突然キレては怒鳴り散らし、家族を萎縮させた。常に緊張している家庭に暮らしながら井上さんは、父親と極力関わらないようになっていく。母親が罵倒されていても、自室に避難し怯えていたという。

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