<7月7日に迫る都知事選、3選にひそむ落とし穴。大衆の敵を作り出し、ワンフレーズで局面を変える...小池劇場の終わりの始まり>

「こんなひどいの、初めて」──。

街宣車の屋根から降りてきた現職の東京都知事、小池百合子が車椅子の男の耳元に曇った顔を近づけてそう言った。それは今、与野党対決の構図で行われている知事選の2カ月前、4月の衆議院東京15区(江東区)補選でのことだ。

耳打ちされた男は、この補選に挑んだ作家で政治団体「ファーストの会」副代表の乙武洋匡である。

乙武と小池という組み合わせは、この補選で誕生した新しいコンビだ。片や乙武は、『五体不満足』が累計発行部数600万部という記録を打ち立てたベストセラー作家で、元都教育委員でもある。

小池は、乙武を擁立した地域政党「都民ファーストの会」(都民ファ)の特別顧問。昨年、豊島区長選や江東区長選で小池カラーの候補を当選させ、都知事選も優勢は揺るがない。

鬼に金棒の乙武だったが、ふたを開けてみれば、1万9655票の5位に沈んだ。冒頭の街頭演説で2人を苦しめていたのは、醜悪な選挙妨害パフォーマンスをネット発信する「つばさの党」(代表・黒川敦彦)だ。

小池が都知事3選への出馬表明をした6月12日、私は乙武自身にインタビューの機会を得て、何が起きていたかを聞いた。

「過去2人の逮捕者を出し注目の選挙区となったせいか、1人の枠に対して立候補者が異例の9人にも上った。このことに有権者には〈選挙区をおもちゃにするな〉という憤りがあったと思います」

つばさの大音量の罵声によって演説が聴衆の耳に届かないばかりか、その場にいる者に激しい嫌悪感をもたらした、と乙武が続ける。

「つばさの敵対対象の一番手が私で、政治的に大きな看板を背負う小池さんも加わって騒ぎは大きくなった。そのことで、(こちらは)被害者なのに〈荒らしに来た側〉というカテゴリーに見なされた面はあるかと思います」。それでも、小池の力強さを改めて痛感したというのである。

「妨害を避けて連日、選挙カーに乗って1日3時間も区内を回るんですが、歩道からこちらに目を向けた人が小池さんに気付いたとき、とりわけ中高年女性からは『会えてうれしい』という反応が返ってきた」

「ハイ、水分補給」

乙武と小池の最初の接点は、昨年8月にスタートした都民ファの政治塾「ファースト政経塾」だった。ゲスト講師として乙武を2度招き、今年2月に出馬を打診している。

「かつては豊洲市場移転の見直しのやり方など、有権者としてはあまり小池さんを評価できませんでした。しかし、この2年ほどの都の政策を見ているうち、アレ?と思うことが増えた」と乙武は語る。

世論が求めているものに敏感な政治家
【関連記事】