薬物によって破壊された若者について読むたび、あの青年を思い出す。最近では、オピオイドの犠牲者が目に付く一方だ。心を悩ます記憶と、共犯者といえる製薬業界への怒りに駆られた私は、今年1月に発表した3作目の小説でオピオイド危機を取り上げた。

あの青年のような犠牲者の物語にすることもできたが、中心に据えたのは悪の側だ。彼らが牢獄に入れられることはめったになく、若者たちが依存症にむしばまれるなか、輝かしい人生を送っている。

63年当時も現在も、社会は不正だらけだ。小説の力のおかげで、私は悪人が報いを受ける世界を描くことができる。「どんどん良くなる」というビートルズの歌詞にうなずくことができる。わが子や孫が道を見失っても、正しい道へ導くために力を尽くしてくれる誰かがいるはずだと思える。

私は89歳だ。60年代に出会ったあの見知らぬ青年は今も、私の心から離れない。

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