<『アステロイド・シティ』は、ウェス・アンダーソン監督が想像力だけを頼りにつくり上げた、あまりに豊かで奇妙な世界>

27年のキャリアで11本の映画を送り出してきたウェス・アンダーソンは、好き嫌いが大きく分かれる映画監督・脚本家だ。その映像世界に魅了される人と不快感を抱く人に、はっきり二分される。

ただし、私自身は数少ない中間派だ。両方の人たちの気持ちがよく分かる。一本の作品について両方の感情を持つことも珍しくない。それでもはっきり言えるのは、アンダーソンがほかに類のない映画監督であり、そのキャリアが注目に値するということだ。

最新作『アステロイド・シティ』は、これまでで最もアンダーソンらしい謎めいた作品であると同時に、最も哲学的で最も野心的なテーマに挑んだ作品と言えるかもしれない。大学で哲学を学んだ若者は54歳になった今、こんな問いを投げかける──芸術作品は何の役に立つのか。

映画は、ワイドスクリーン以前の映画を思わせる画面サイズの白黒画像で幕を開ける。ブライアン・クランストン演じる司会者が進行役を務めるテレビ番組の一場面だ。

20世紀半ばの伝説的劇作家コンラード・アープ(エドワード・ノートン)の未上演作品を紹介する番組だという。舞台を録画したらしい映像の中で、ジェイソン・シュワルツマン演じる若手俳優がアープのアパートを訪ねてオーディションを受ける。

その後、程なくして世界が一変する。画面が横に広がり、白黒の映像はやわらかいパステルカラーに色づく。この世界では、シュワルツマンがオーディションで獲得した役を演じている。

町が無期限封鎖されて

時は1955年。妻を亡くしたばかりの戦争写真家オーギー・スティーンベック(シュワルツマン)は、幼い3人の娘とティーンエージャーの息子ウッドローを自動車に乗せて、アメリカ南西部の砂漠の町アステロイド・シティを目指す。ジュニア宇宙科学賞の祭典に出席するためだ。ウッドローが受賞者の1人に選ばれていたのである。

イベントの参加者の中に、やはり受賞者である娘のダイナ(グレース・エドワーズ)を連れたシングルマザーで映画スターのミッジ・キャンベル(スカーレット・ヨハンソン)がいた。オーギーとミッジは初対面の挨拶を交わし、ダイナはウッドローを熱い視線で見つめる。こうして、オーギーとウッドローの父子は恋に落ちる。

もし、もっとこの2組の親子を中心に据えて描いていれば、アンダーソンが手がけた作品の中で最も感情面で現実味のあるものに仕上がっていただろう。

「AIに使われるか、AIを従えるか」 一橋大学が問う、エージェント時代の「次世代エグゼクティブ」の条件
「AIに使われるか、AIを従えるか」 一橋大学が問う、エージェント時代の「次世代エグゼクティブ」の条件
もう一度見たくなる映画