こうした動向に加えて、台湾では2024年1月に総統選挙と立法委員(国会議員)選挙を控えており、サイバー攻撃そのものが増加する可能性も指摘されている。サイバーセキュリティや台湾情勢にも詳しい慶應義塾大学の土屋大洋教授は、「中国は台湾をサイバー攻撃しているが、政府や民間で防御してもさらに攻撃を重ねてくる。台湾侵攻についても、すでにサイバー攻撃を含めた計画は立てていると見られており、有事に向けたサイバー攻撃も実施していると台湾当局も分析している」と言う。

サイバー空間では台湾での「有事」はすでに始まっているのかも知れない。しかもインフラなどが狙われる可能性があるとなれば、ことは深刻で、日本も他人事ではない。そこで筆者は、実態を知るべく台湾で取材を行った。

台湾では、セキュリティ関係者らに話を聞くことができた。そこで感じたのは、台湾のサイバーセキュリティ対策の意識の高さだ。その理由のひとつには台湾有事の可能性が指摘されていることがある。

トレンドマイクロCEOが語る「理想と現実」

台湾と日本に本社を構えるサイバーセキュリティ企業であるトレンドマイクロのエバ・チェンCEOは、「台湾と中国は平和に共存してきた。両者の関係がお互いの経済に恩恵があることを考えると『危険なバランス』だと言われるが、どちらも戦争を行う選択肢はないはずだと個人的には考えている」と言う。

ただ何か不測の事態が起きる可能性はもちろん排除しておらず、「トレンドマイクロでは、不測の事態が起きても、顧客が少なくとも1年間はそれまでと何も変わらないサービスを継続して受けられるよう経営体制を整えている。また、人材を世界に分散するなどして緊急時にも適切に事業継続ができるよう対策をしている」

台湾の企業関係者などの視点に立てば、中国と良好なビジネスができるのに越したことはないし、有事という最悪の事態は避けたいという意見も耳にした。ただ現実として、サイバー攻撃や、選挙に向けた影響工作などが台湾を襲っていることも事実である。

トレンドマイクロは、もともと台湾出身者が創業した企業だ。現在は日本に本社を置き、世界65カ国で20億ドル規模のビジネスを展開している。台湾にも数多くのエンジニアなどを配置して、コンピューターや通信技術をカバーする「IT(インフォメーション・テクノロジー)」から、産業や社会インフラのための制御技術を指す「OT(オペレーショナル・テクノロジー)」まで幅広いセキュリティ対策を提供する。日本でも、官公庁の4割で同社のセキュリティソリューションが導入されている。

近年、台湾ではインフラ施設や工場など産業制御システム、つまりトレンドマイクロが乗り出しているような「OT」のセキュリティ対策が急務であると認識されている。というのも、「IT」へのサイバーセキュリティは比較的導入が進んでいるが、「OT」に対するサイバー攻撃対策はあまり重要視されてこなかったからだ。

先端技術で覇権を狙う中国に狙われる半導体企業
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