プリゴジンの言葉からは裏社会的な考え方がにじみ出ている。だがプーチンは、発言の中で裏社会の掟についてはっきり触れるのを明らかに避けている。一方でプーチンが、この掟を固く守っている印象もある。彼は元KGB工作員で、有罪判決を受けたことはないものの、長年にわたって犯罪組織とのつながりを保ってきた。

プーチンが掲げるロシアの伝統的価値観にも、そんな掟の影響がうかがえる。特にマッチョな行動や性的な純潔を尊ぶ点だ。ロシアという国の同性愛への嫌悪も、男をレイプするのは普通だが男を愛するのは体面を失う行為だとするカースト的サディズムを勘定に入れなければ理解できない。

ロシアの著名なジャーナリストで政治家のマキシム・カッツ(現在はイスラエル在住)は私に、プーチンとロシアの政治エリート全般を理解するのにパニャーチエは欠かせない要素だと語った。

「元KGBの連中はランクの高い犯罪者の振る舞いをまねしたがる」と、カッツは言う。「プーチンの犯罪者のような振る舞いは、いい家の子がいじめっ子の振る舞いをまねしようとはするけれど、決していじめっ子の仲間入りはしないというのに似ている。ロシアの犯罪者の世界では、盗賊と『ゴミ』(官憲)をはっきりと区別する。ゴミは何とかして裏社会のまねをしようとするが、裏社会からすればゴミは人間以下の存在だ。ゴミの言葉は安っぽいコスプレみたいなもので、『掟』を本気でありがたがっているわけではない」

プーチンは掟をまねしているだけかもしれない。だが犯罪者の世界では、掟は本気で守られている。西側のアナリストたちもその重さについて考えてみるべきだ。

From Foreign Policy Magazine

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