TPP(環太平洋パートナーシップ協定)をめぐって、民主党がゆれている。TPPといってもなじみがないと思うが、シンガポール、ブルネイ、チリ、ニュージーランドの4ヶ国で結んでいる自由貿易協定である。ところが昨年、オバマ大統領がアメリカもTPPに参加する意向を表明し、オーストラリア、ペルー、ベトナム、マレーシアも参加を表明した。中国もTPP参加に関心を示しており、太平洋ブロックを包括する自由貿易圏に発展する様相を見せてきた。

 日本もこれに乗り遅れまいと、菅首相は臨時国会の所信表明でTPPに参加する意向を表明する予定だったが、民主党内の反発で「参加を検討する」との表現にとどまった。11月7日から横浜市で開かれるAPEC(アジア太平洋経済協力会議)で、日本が議長国として指導力を発揮するため、外務省や経済産業省は推進体制をつくろうとしているが、農林関係議員が反対している。

 仙谷官房長官と前原外相が推進派で、鹿野農相が反対派というのはわかるが、当初は推進派だった大畠経産相が26日になって一転して慎重派になったことが混乱に拍車をかけている。この背景には、大畠氏の所属する鳩山グループが中心になって結成した「TPPを慎重に考える会」という議員グループがある。

 これは小沢グループの山田前農相が中心になって結成したもので、110人の国会議員が参加を表明している。農村地域や参議院一人区の議員が多く、「TPPは黒船だ。関税を撤廃したら日本の農業は壊滅する」と強く反発している。このままエスカレートすると、代表選挙のとき党内を二分した「小沢/反小沢」の対立が再燃し、党分裂の引き金ともなりかねない。

 おまけに官庁もTPPについて別々の「シミュレーション」を発表した。内閣府は、TPPに参加すれば貿易の拡大などで実質GDP(国内総生産)が0.48~0.65%上がるという推計を出したが、農水省は関税をすべて撤廃すると、食料自給率(カロリーベース)が14%に低下してGDPが1.6%低下するという。他方、経産省はTPPに参加しないと、欧米とFTA(自由貿易協定)を結んだ韓国に市場を奪われ、2020年にはGDPが1.53%低下すると試算した。

 経済的にみて、どちら側の主張が正しいかは議論の余地がない。これは前原外相がいうように「第1次産業のGDP比は1.5%。その利益を守るために残りの98.5%を犠牲にするのか」という問題である。しかし1.5%の政治的発言力のほうが強いため、これまで日本はアメリカともヨーロッパともFTAを結べず、円高で輸出産業は苦境に追い込まれ、海外移転が進んでいる。

 こういう話には、妙な既視感がないだろうか。自民党政権でウルグァイ・ラウンドのコメ自由化のときや、WTO(世界貿易機関)の交渉のたびに毎度のように繰り返された騒動である。そういう政治にうんざりした国民が「既得権益の打破」を掲げた民主党に投票したはずなのに、いま起きているのは自民党時代とまったく同じ騒ぎだ。市場開放に反対しているのは「東アジア共同体」やら「友愛」やらを掲げていた鳩山前首相である。何のための政権交代だったのだろうか。

 菅首相は、党の分裂を避けつつAPECで前向きの姿勢を示すべく党内調整に苦心しているそうだが、これはまさに江戸末期の状態である。坂本龍馬と近藤勇に手を結べといっても無理だし、結んだところで長続きするとも思えない。この際、「尊王攘夷」を掲げる小沢・鳩山グループが党を出て、自民党でもTPPに反対しているグループや国民新党や社民党と連携し、他方で民主・自民両党の「開国」派が合同し、国会を解散して「開国か鎖国か」を争点に総選挙をしてはどうだろうか。