政府が日本郵政の社長に元大蔵次官の斎藤次郎氏を起用した人事は、多くの人を驚かせたが、これは先日の概算要求と一体で考えると意味深長である。概算要求で95兆円、金額を明示しない「事項要求」を含めると実質97兆円以上にふくらんだ来年度予算は、財政破綻の可能性を示しているからだ。


 現在の長期金利は1.3%台と落ち着いているが、以前の記事でも書いたように、この金利は財政の維持可能性リスクを反映しない「バブル」になっている疑いがある。国債を買っているのは個人投資家ではなく郵貯や銀行なので、「金融村」の群衆心理で相場が維持されているのかもしれない。国内で94%が消化され、合理的な運用を行なう外国人投資家がほとんど買っていないことも、その疑いを裏づける。


 バブルは自己実現的だから、金融村の錯覚が横並びで維持されているかぎり大丈夫だが、過去の経験からみると、最終的には需給の限界を超えると一挙に崩壊し、投げ売りが始まると暴落する。どこにその限界があるかは不明だが、片山さつき氏によれば「マーケットのキャパは120兆円」だというから、来年度の国債発行で借り換えを含めて135兆円を超す国債が発行されると、これをはるかに超える。


 今回の日本郵政の社長人事は、これに備えたものと考えることもできる。国債が市中で消化しきれなくなった場合、まず日銀に買い入れを要請するが、これも金融政策としての節度を超えられない。日銀に国債を強制的に引き受けさせることは財政法で禁じられているが、国会決議があれば可能だ。しかしこれは政治的なリスクが大きいばかりでなく、そんな決議をすること自体がバブル崩壊のきっかけになる可能性もある。


 そこで日本郵政が出てくる。今でも保有資産の8割が国債で、西川社長はこれを減らして効率的な運用や融資に変えようとしていた。それを大物の大蔵省OBに変えた背景には、日本郵政の企業としての合理性を無視して、国債を最大限に引き受けるねらいがあるとも解釈できる。これは実質的には、郵政民営化を白紙に戻すに等しい。


 そもそも郵政を民営化した最大の理由は、財政投融資が特殊法人などを支える「隠れ財政赤字」となっていた状況を是正し、財政規律を取り戻すことだった。そのねらいは、実質的には2001年に資金運用部が廃止されて郵貯が自主運用に切り替えられたとき、実現した。資金運用部が郵貯に供給していた0.2%の利鞘がなくなり、郵貯が国債だけを保有していては、預金金利が上がったとき逆鞘になるリスクが出てきたからだ。


 しかしその後も低金利は続き、長期不況で他に融資先もなかったので、郵政公社や日本郵政になっても、国債に片寄った運用は是正されなかった。さらに今度の社長人事で、郵貯が国債の比率を高める可能性もある。それは国債バブルの崩壊する「Xデー」を先送りする危機管理策としては意味があるが、財政赤字は先送りするとさらに大きくなる。財政が破綻した場合の日本経済に及ぼすダメージは、90年代のバブル崩壊の比ではない。