<アメリカはウクライナが使いこなせるかを不安視してHIMARS供与に時間をかけたが、その懸念をよそに戦果を上げている。しかし冬前に占領地域の解放を始めなければ、ロシアが得意とする長期戦にもつれ込む可能性も>

ロケット砲が爆発するのを、ウクライナ兵たちが遠く離れた場所から見つめている。ロシア軍の陣地から、大きな噴煙が舞い上がる。

最初は歓声を上げていたウクライナ兵だが、アメリカから供与された高機動ロケット砲システム(HIMARS)の威力を目の当たりにして、やがてささやくような声で話し始める。

「おい、見ろよ、ロシア兵が死んでいくぞ」。ソーシャルメディアに載って世界を駆け巡ったこの動画の中で、ウクライナ兵の1人がつぶやく。

ウクライナにはアメリカに供与されたHIMARSが8基あり、ロシア軍に大きな被害をもたらしている(さらに4基が追加予定)。英BBCのロシア語放送によれば、6月にはHIMARSがロシア軍の弾薬庫14カ所を破壊した。

HIMARSによる攻勢が強まっていることを受けて、ネット上には戦闘服を着て爆発を見つめている柴犬をあしらったマスコットも誕生。ウクライナ側は、少なくとも1人のロシア軍司令官が爆発で死亡したとみている。

ネット上に流れる一部の情報とは裏腹に、ウクライナ軍はロシアを相手に劣勢に立たされている。ロシア軍は東部でルハンスク(ルガンスク)州の大半を掌握し、その西のドネツク州でもさらに攻勢を強めている。

それでもHIMARSに加えて、60キロ以上離れた場所から標的を狙える誘導式多連装ロケットシステム(GMLRS)がアメリカから到着したことで、形勢逆転の希望も見えてきた。

「見ろよ、ロシア兵が死んでいくぞ」という兵士の言葉は、5カ月目に入って消耗戦の様相を呈し始めた戦闘の中で、ウクライナ側の抵抗の機運を象徴するスローガンになっている。

専門家のみるところ、ロシア側にとって消耗戦への突入は想定外だった。ロシアの当局者らは、アメリカがウクライナに精密誘導ミサイルを供与することをかなり前から知っていた。4月には米国務省に外交文書を送り、バイデン政権による武器供与を阻止しようとまでした。

機敏さを欠くロシア軍

ロシアが神経をとがらせていたのには理由がある。HIMARSは重さが約18トンで、一度に6発の精密誘導ミサイルが発射可能だ。機動力が高く、発射後すぐに逃げられるから、東部ドンバス地方でウクライナ軍の約3倍を誇るロシアの砲撃能力に打撃をもたらすこともできる。

だがロシアは、ウクライナが反撃する余地を残したままにしていた。

ロシアが対策を講じたようには見えない