コロナ禍での給付金額など、辛うじて連立政権内部での自民党と公明党間での交渉が市民の怒りをすくい上げる機能を一部で果たしているとも言えるが、それでも十分ではない。

与野党どちらを支持するかという党派性とは別の次元で、行きどころのない閉塞感と抑圧された不満の蓄積をいかに日本社会として解消していくか、という政治技法が「不在」なのだ。そうした行き場を失った「空疎ないら立ち」が最悪の形で表出したのが今回の安倍氏暗殺という悲劇かもしれない。

現時点ではまだ確かなことは分からないが、言えるのはテロにカタルシスを得たのは犯人だけであり、残されたわれわれがどうやってこの虚無と短絡に満ちたテロを乗り越え、喪失感を克服していけるかは深刻な課題だということだ。

経済格差にとどまらず、人口減少、エネルギー供給、低成長率と低生産性といった社会課題の抜本的で実効性のある解決は先送りされ続けている。

問題を先送りし、思考停止する日本政治にこそ牙を向けられたと考えるのであれば、今回、日本を象徴する一つの存在としての安倍元首相に凶弾が放たれたことの意味をわれわれは冷静に受け止め、政治回路の刷新に本気で取り組まなければならない。

それはすなわち、分断による衝突を調整する回路として政党政治を再興させることだ。そうしなければ、今回の喪失感を乗り越えていけないばかりか、日本が立ち行かなくなる。そうした岐路に、われわれは立たされている。

しかし、戦後日本で首相・党首クラスの政治家が暗殺された例はまれで、東京・日比谷公会堂の浅沼稲次郎(社会党党首)暗殺事件(1960年)が想起されるくらいだ。令和の時代にこのような政治テロが発生すると想像していた者は、国の内外を問わず少なかっただろう。
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