これは驚くべき告白だ。科学技術の最前線を知る立場にある人物が、量子力学を「分からない」と認めるのだから。しかし岩本氏は、それを当然のこととして受け入れている。

「我々が生きているのは、ニュートン力学、熱力学、電磁力学を含めた古典的物理学の世界だ」と岩本氏は説明する。古典物理学は、私たちの感覚と完璧に一致する。りんごは木から下に落ち、ボールは投げた方向に飛んでいく。これらは直感的に理解できる。

ところが、0.1ナノメートル以下の量子の世界に入ると、事情は一変する。「結論を申し上げると、『いくら説明されても分からない』。なぜなら、我々が生きているこの実世界とは違うのだから」

かのアインシュタインですら、量子力学にはクエスチョンマークをたくさん並べていたとされる。そんな量子力学の世界について、岩本氏は「その原理を理解しようと努めるのはもうやめて、といつも講演で申し上げている」と語る。同時に、「しかし、そのアウトプットや人間社会にどういうインパクトを及ぼすのかということは、真剣に考えてくださいと言うようにしている」とも付け加えた。

量子力学の理論を完全に理解することは難しい。しかし、それが社会に与える影響を考え、活用することはできる──これが岩本氏の一貫したメッセージであり、それこそが重要なのだ。

政府が見据える「次のフロンティア」

続いて挨拶したのは、内閣府科学技術・イノベーション推進事務局の統括官であり、人工知能政策推進室長も務める福永哲郎氏だ。福永氏の挨拶は、政府がこの「量子×脳科学」の融合をどう位置づけているかを明確に示すものとなった。

「AIや量子が、今後の社会のあり方や国力を左右する極めて重要な技術として認識されている」と福永氏は語る。政府の成長戦略の中でも、これらは最重要分野として位置づけられており、官民での戦略づくりが進められている。

量子の「不思議」が脳の「神秘」を解く鍵