謎が謎のまま、世界に存在してもいい

実は『まさゆめ』のプロローグとも言える作品がある。14年、栃木・宇都宮美術館館外プロジェクトとして実施された『おじさんの顔が空に浮かぶ日』でも、実在の人の顔を上空に浮かべたのだ。荒神は言う。

「宇都宮の時もそうでしたが今回もやっぱり、空に顔が上がったのを見て、この光景は圧倒的に"謎"だと思った。つくった自分たちにもはっきりした答えはなく、突き放されるというか、ずっとわからないまま存在している感じ。だけど、きっかけとなる夢を昔見た時から、もしかしたらわからないことを望んでいたのかもしれない。謎は謎のままでいいんだ、と。夢の中でその光景をつくっていた大人の姿に勇気づけられた気持ちが、自分たちの作品で守るべき大事な要素となって、いまも続いています」

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市民参加による初めての「顔」作品『おじさんの顔が空に浮かぶ日』宇都宮美術館館外プロジェクト、2013-2014年。宇都宮市内に設けた拠点でモデルを募集しワークショップを経て選出した。 photo:Takao Sasanuma

宇都宮の時と大きく違うのは、誰の顔を、いつ、どこで上げるかといった情報がすべて非公表で進められたため、プロジェクトの根幹が制作以外の部分に大きく委ねられていたことだと、増井宏文は言う。増井は、荒神と南川が発想し言語化したアイデアをどう作品にするか、そのシステムづくりや制作を担うインストーラーとして目[mé]を支えている。

「今回は広報や運営を含め、プロジェクトのさまざまな役割が重要でした。交渉や調整の範囲も広く、手を動かすこと以外でもつくっていく感覚をつかめたので、今後の制作方法にも影響すると思います」

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『まさゆめ』で空に浮かべた顔の瞳の部分。制作方法や浮上方法は非公表だが、パラシュート用の素材にプリントが施されている。顔の全体像は直径がビル6階~7階相当の大きさ。 Photo:齋藤誠一

この夏の「顔」騒動で、彼らを初めて知った人も多いだろう。目[mé]とはどんなアーティストなのか? 「現実の不確かさ」を身体感覚へと手繰り寄せて可視化すべく、狂気的なまでに状況をつくり込み、体験させるのが彼らの手法だ。アーティスト・荒神、ディレクター・南川、インストーラーの増井。3人のチームワークから繰り出される作品世界は、体験型アートとひと括りにできるほど生易しくなく、観客はそこに巻き込まれることで、知覚の揺らぎに戸惑い、思考し続ける。

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目[mé]●左から、アーティスト荒神明香、インストーラー増井宏文、ディレクター南川憲二。彼らを中心とする現代アートチームで手法やジャンルにこだわらず空間や観客を含めた状況・導線を重視する作品を展開。https://mouthplustwo.me/jp  Photo:齋藤誠一
「鑑賞者のほうが作品を的確に説明できることもある」