「私が何よりも驚いたのは、作家らがオークションハウスと直接取引したいと思っているということだ。私たちはこれまで常に二次市場で活動していたのに」と語るのは、やはり世界的なオークションハウスであるフィリップスで20世紀・現代美術のシニアスペシャリストを務めるレベカー・ボウリング氏。

「伝統的構造はひっくり返された」と語るボウリング氏は、作家との連絡にツイッターとクラブハウスを使っているという。

クリプトアートのリスクは

だが、まだ馴染みの薄いメタバースに乗り込んだオークションハウスは、新たな次元のリスクにも直面している。特に、購入者たちがNFT購入の決済手段として好む暗号資産に伴うリスクだ。

オークションハウスが「本人確認(KYC)」と「マネーロンダリング防止(AML)」という2点で法的リスクに直面すると指摘するのは、仮想通貨を得意とする弁護士で、ニューヨークのダイレンドルフ・ローファームのパートナーであるマックス・ダイレンドルフ氏だ。

「このような作品は有価証券と見なされる可能性があり、画廊が作家や作品を選別する際には独自にデューデリジェンス(資産査定)を行う方がいい」とダイレンドルフ氏は語り、すでに暗号資産を利用したマネーロンダリングが行われていることは「周知の事実」になっていると指摘した。

サザビーズは、自社のKYCやAMLの手順に関するコメントを控えている。クリスティーズは、NFTの販売におけるKYC及びAMLの基準は、リアルな美術作品に対するものと同じだとしつつ、詳細についての説明は拒んでいる。フィリップスは、購入者のウォレットに十分な残高があるかをチェックしていると述べた。

もう1つの問題は、NFTはデジタル資産の所有権を明白に登録する方法として販売されているが、それでもトラブルが生じる可能性がある、ということだ。

サザビーズが6月に販売したNFTの1つは、初のNFT作品と称されるケビン・マッコイ氏によるシンプルな幾何学模様のアニメーション作品「クオンタム」で、購入者は150万ドルを投じた。だが、同じNFT作品についてもっと前のオリジナル版を所有しているという異議申し立てが起きたことで紛糾した。

これとは別に、サザビーズがワールドワイドウェブのソースコードを表現するNFTをオークションで販売した後(540万ドルで落札された)、コードの動画バージョンに誤りが含まれていることを識者が指摘している。

双方の事例についてサザビーズにコメントを求めたが、回答は得られなかった。

マイアミ州を本拠とするコレクター、パブロ・ロドリゲス・フレイル氏は、NFTとリアルな芸術作品の双方を収集対象としている。同氏によれば、オークションハウスがデジタルの世界に参入する際の取り組みは非常に高く評価できるという。

「オークションハウスは、デジタルアートのエコシステムの標準化を進めている。彼らはまもなく正しい道を見つけるのではないか」とフレイル氏は語る。

「とはいえ、キュレーションの難しさと技術的な課題は重要なテーマだ」と同氏は述べ、オークションハウスが画廊のように一次販売に関わることの難しさを指摘する。

クリスティーズは16日、デジタルアート作家「ビープル」によるNFT新作を販売する。同氏のNFT作品は3月の同社オークションで6900万ドルの値を付けた。大手オークションハウスが、物理的には存在しない芸術作品を販売したのは、このときが初めてだった。

だが今回は、「ビープル」の作品は、NFTと同時に実体のある作品としても販売される。少なくともクリスティーズでは、実物の世界にもいくばくかの魅力が残っているようだ。

(Elizabeth Howcroft記者、翻訳:エァクレーレン)

[ロイター]
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