癌は遺伝子異常によって発生するので、全患者にゲノム解析検査を実施すれば原因が突き止められる。そこに分子標的薬などのオーダーメイド治療を施せば、効果が格段に上昇する、と。
なぜ、この施策が打てないのか。国や行政は、1回数十万円かかるゲノム解析の検査による財政圧迫を危惧する。だが、中村はこう計算する。検査が現状の1回30万円だとして、年100万人の新規癌患者全員に実施すると、3000億円が必要となる。だが、回数の増加で規模の経済が働き、検査費用は劇的に下がるはずだ。患者の治癒によって国民医療費に削減効果も出ると予測する。
患者中心に考えれば、こうした医療政策こそが求められる。
ニュースに流れる最先端治療が全国の医療現場に行き届くまでには長い年月を要する。だが、患者は一刻も早く技術革新の恩恵を受けたい。
時間がないのだ。毎年100万人が癌に罹患し、40万人が命を落とす。それでも、過去データによる効率的作業が載ったクックブックを見ながら、患者をファストフードのごとく治療し続けるのだろうか......。
この流れに歯止めをかけるのは、ほかでもない、癌患者本人なのかもしれない。国民の2人に1人が罹患する時代、家族や知人も含めれば、全国民が「患者」の立場に立たされることになる。国家全体が「患者」としての思考と行動を迫られる瞬間が、近づいている。
元日経ビジネス記者でジャーナリスト歴30年の金田信一郎は昨年3月、突然ステージ3の食道癌に襲われた。紹介された東京大学医学部附属病院(東大病院)に入院し、癌手術の第一人者で病院長が主治医になったが、曖昧な治療方針に違和感を拭えず、セカンドオピニオンを求めて転院。しかし転院先でも土壇場で手術をせず放射線による治療を選択し、今では以前とほぼ同じ日常を取り戻した。 予定時間ぴったりに広報担当者が現れ、案内されて研究棟にある瀬戸の部屋に着いた。少し廊下で待つと、ドアが開く。黒縁眼鏡に柔和な表情は、入院当時のままだった。
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