下積みの経験の大切さを、勘十郎さんは父から学んだ。3人の中央にいる足遣いは常に主遣いの体に触れている。だから主遣いを演じる父がどのように人形を遣うのかを身体で感じることができた。

晩年の父が遣った、名作『夏祭浪花鑑(なつまつり なにわかがみ)』の主人公、団七。長い手足に入れ墨をいれた大きな人形を、何度も病気を患い痩せ細った父が全身で操っていた。足遣いとして父の身体に触れていた勘十郎さんは、小柄な人形遣いでも、つま先から指さきまで全身を使えば人形が生きてくることを教えてもらった。

今、文楽の世界を背負い、若手を育てる立場にいる勘十郎さんは将来のことをより深く考えるようになった。若手の人形遣いが欲しい。足を遣う人が足りない。文楽は一生をかける覚悟で始めるものだと考えていたが、最近は違う思いも出てきた。

新しい入口、新しい遣い手

もし主遣いになるまでの長い道のりが若者の重荷になるのなら、別の形で文楽の世界に入ることはできないか。幕を開けるだけ、小道具を渡すだけの出番でもいい。いやならやめればいい。でもそこから文楽を好きになって、一生をかけてくれる人が出てくるかもしれない。小学校での授業も、「やっているうちに、好きになってくれる子もでてくるんちゃうか」と、思うようになっている。

国立文楽劇場には後継者を育成するための研修制度がある。太夫や三味線も含めた現役技芸員83名のうち約半数が、1972年に始まった同制度の出身者だ。現在研修生は2人いる。

今は日本人ばかり、それも男性だけの文楽の世界だが、いずれは外国人が入ってくる時代が来るかもしれないと勘十郎さんは言う。相撲や落語ではすでに外国人が活躍している。

そしていつの日か女性の人形遣いも出てくる日があるかもしれない。「第一号がさあ、いつになるのかというところですかね」と勘十郎さんはつぶやいた。

[ロイター]
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