<トランプの卑劣な法螺なのか、それとも何か根拠があるのか。米黒人差別反対暴動の闇>

ニューヨーク州バッファローで行われたデモ参加中に警官に突き飛ばされて倒れ、鼻から血を流したまま放置された白人男性の映像は、警察の暴力の例として世界中を駆け巡り、全米を覆う抗議デモの一つの象徴にもなっている。ところがドナルド・トランプ大統領は、そのマーティン・グジーノ(75)は、被害者どころか、極左集団アンティファの工作員だと言い出した。

グジーノは6月4日夜、黒人男性ジョージ・フロイドの死に抗議する市庁舎前でのデモ参加中に、警官2名に突き飛ばされて入院した。事件の様子をとらえた動画はSNSなどで拡散され、突き飛ばした警官アーロン・トルガルスキーとロバート・マッケイブは、無給の停職処分を受け、第二級暴行罪で起訴された。

入院して重体のグジーノは、非営利団体「西ニューヨーク平和センター」に所属する社会活動家。10年来の知人であるテレンス・ビッソンは地元テレビに対し、グジーノは「愉快でやさしい」人だと話した。一方、グジーノの警察批判のツイートを見て、グジーノが警官に近づいたのは挑発のためだった、と言う人もいる。ビッソンによれば、グジーノは「誰かを怒鳴ったり敵対したりすることは絶対にしない」が、「何かが間違っていると思ったら質問をぶつける」タイプだという。

トランプは6月9日、右派メディア「ワン・アメリカ・ニュース・ネットワーク」の報道を引用するかたちで、グジーノは「彼はアンティファの工作員だった可能性がある。突き飛ばされる直前、警官無線をスキャンして壊そうとしているように見えた」と意味不明のツイートをした。「彼は押された力よりわざと激しく転んだように見えた。スキャンを狙っていた。(警官は)罠にかけられたのではないか」

アンティファは急進左派の活動家ネットワークで白人至上主義と戦っているとも言われ、一連の抗議デモや暴動を裏で扇動しているのもアンティファだと、トランプは最初から主張してきた。

「改革の障壁」を支持するトランプ

グジーノが「アンティファのメンバー」だというトランプの主張には、たちまち反論が寄せられた。たとえ本当にアンティファだったとしても、警官のあの暴力を正当化することはできないと言う人もいた。

グジーノの弁護士ケリー・ザルコーニは本誌に対し、グジーノは「常に平和的な抗議者だった」と話した。「アメリカ社会のことを憂いていた」

「それとは違うことをほのめかした法執行関係者はひとりとしていない。それなのに、アメリカの大統領がなぜ、あれほど陰険で危険で根も葉もない言いがかりをつけたのか、理解できない。困惑している」とザルコーニは話した。

バッファローの警察もトランプと似たような意見だ。警察当局は当初、グジーノが「つまずいて転んだ」と動画と矛盾することを主張して市民の怒りを買った。バイロン・ブラウン市長は、加害者の警官たちを擁護するバッファロー市の警察組合は、長らく「歴史のまちがった側」に立ち、「改革の大きな障壁」になっているとして批判した。

バッファロー警察組合長のジョン・エバンスは地元テレビに対し、「警官たちをこの状況に追い込み」「仕事をできなくさせた」のは市当局だと語った。マッケイブの弁護を担当している警察組合の弁護士トーマス・バートンは、「どちらの警官に関も有罪とはとうてい思えない」と述べている。

トルガルスキーとマッケイブが6日に裁判所を出た際には、激励の拍手と歓声が巻き起こった。その前日には、警官57人が、有志による緊急対応チームを辞めた。停職処分になった2人の警官に対する支持を表明するためのだという。

(翻訳:ガリレオ)

<参考記事>米警察はネオナチより極左アンティファがお嫌い

<参考記事>ミネアポリスの抗議デモが暴動に......略奪から店舗を守ろうと武装市民が警護

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【動画】警官に突き飛ばされるグジーノ