Samia Nakhoul Timour Azhari
[ベイルート/リヤド 30日 ロイター] - 米イランの軍事衝突が再び激化する中、中東湾岸アラブ諸国の間では、ホルムズ海峡と紅海の航行確保に向けて、米国ではなく中国がイランに対して経済的な影響力を行使することへの期待が高まっている。中国はイランに圧力をかける能力と意思がどれほどあるのかが試される局面を迎えている。
湾岸諸国が中国の役割拡大を求める背景には不満の高まりがあると、湾岸諸国の関係者は指摘する。米国とイスラエルによる2月28日のイラン攻撃で始まった戦争は、湾岸地域の敵国イランに打撃を与えた一方、湾岸諸国にとって生命線であるエネルギー輸出が影響を被り、程度の差こそあれ、自国が攻撃対象となるリスクも高まった。
イランとその同盟勢力がホルムズ海峡に加えて紅海のバベルマンデブ海峡でも船舶の航行を脅かしていることから、湾岸諸国は中国に支援を求めている。地域関係者3人によると、こうした動きの背景には、今回の戦争により米国の影響力には限界があることが露呈したとの認識がある。
中国は王毅外相が新たな停戦の実現に向けて各国外相らと数十回に及ぶ電話会談や会談を重ね、翟雋・中東問題特使も湾岸アラブ諸国の首都やイランで協議を行っている。中国外務省はロイターの取材に「中国は各方面と緊密な意思疎通を維持し、一貫して戦闘停止と和平促進に取り組んできた」とコメントした。
中国は湾岸地域全体から大量の原油を輸入する一方、イランにとって最大の貿易相手国でもある。この立ち位置は中国に外交的な機会を与える一方で、難しいかじ取りも迫っている。
湾岸諸国の関係者の1人は「中国は湾岸諸国から高い評価を受け、重要な貿易相手国でもある。そのため、あらゆる問題は非常に慎重な形で提起されている」と語った。この関係者によると、湾岸諸国政府は最終的に中国がイランを交渉の席につかせて紛争解決を図ることを期待しているが、中国は全般に、慎重かつ時間をかけて行動する傾向がある。一方で湾岸諸国は、戦争が長引けば米国の負担を増大させ、結果的に中国を利することになり得るとも認識している。
<超大国間競争が中国外交を制約>
中国は2022年の中国・湾岸協力会議(GCC)首脳会議以降、GCC加盟6カ国(バーレーン、クウェート、オマーン、カタール、サウジアラビア、アラブ首長国連邦)との間で貿易・投資関係を急速に深めてきた。正式には決定していないが、今年もリヤドで首脳会議が開かれる予定だ。
しかし、中国はイランによる船舶航行への脅しを公の場で非難することは避けており、中国が湾岸地域とそのエネルギー輸出の安全確保のため、どこまで踏み込む用意があるのか疑問視する声も出ている。
別の湾岸関係者は「中国はより積極的に関与しようとしており、より建設的な役割を果たそうとしている」と評価しつつ、「しかし、中国はわれわれが考えていたほど大きな影響力を持っていないことが分かった。それが意思の欠如なのか、能力の不足なのかは議論の余地があるが。米国が介入すると、結局は超大国同士の力学がすべてを左右するようになる」と話した。
米シンクタンク、ワシントン研究所の中国専門家ヘンリー・トゥーゲンダット氏は、中国の最優先課題は中東地域全体との関係維持であり、どちらか一方に公然と肩入れして外交的な摩擦を招くことは避けたい考えだと指摘した。米国が直接戦争に関与したことで、中国の戦略的な計算は、湾岸地域だけでなく、米中関係や両国の競争全体へと広がったという。
中国との協議内容を直接知る関係者は「湾岸諸国は中国の技術や投資、ドローンは購入できる。しかし、対米関係とは切り離した形で機能する中国の外交的影響力までは買うことができない」と語った。
<自国利益との均衡を模索>
中国は経済的な結び付きを外交カードとして活用し、2023年にはサウジアラビアとイランの関係正常化を仲介した。しかしこうした手法がいま、大きな試練に直面している。
パキスタン政府関係者3人が先週ロイターに明らかにしたところによると、中国は、米国とイランの和平協議再開に向け、パキスタンが仲介役を務めるよう働きかけている。
事情に詳しい関係者6人によると、中国はイランが支援するイエメンの親イラン武装組織フーシ派とも直接協議を行った。同組織がサウジ向け航路の封鎖を表明した後、中国関連のタンカーが紅海南部を攻撃されずに航行できるよう取り決めを結んだという。
ワシントン研究所の上級研究員アンナ・ボルシチェフスカヤ氏は、中国の外交努力で目に見える成果は、中国関連船舶だけを保護する限定的な二国間取り決めにとどまっていると指摘。「それ以外に、中国が実現した、あるいは実現しようとした成果は見えてこない」という。その上で、今回の紛争により、中国は自国の利益を守りつつ、エネルギー価格上昇を通じて欧米の指導者が有権者からより強い圧力にさらされる状況を作り出すことができたとの見方を示した。
中国はイラン産原油を安価に調達する恩恵を受けている。また近年、軍民両用部品や半導体製造関連機器、衛星測位システムなどを通じてイランの安全保障体制への支援を拡大してきたが、戦争開始後は軍事支援を公然とは行っていない。紛争勃発後は、イランに半導体製造関連機器や情報支援、防衛システムを提供したとの一部報道を一貫して否定している。
アナリストによると、今回の危機対応は、中国が東アジア以外で縛りを伴う安全保障上の責任を負うことを避けてきた長年の戦略を反映している。米国が同盟国との相互防衛義務を基盤とする安全保障体制を築いているのに対し、中国は貿易、投資、武器輸出を軸としたパートナーシップを重視し、より深い軍事的関与は自国周辺地域に限定する姿勢を取っているという。
中国の協議内容を直接知る関係者によれば、中国はフーシ派との実利的な取り決めを結び、中国関連船舶の大半が攻撃対象となるのを回避できているが、全ての攻撃を終わらせるようフーシ派に圧力をかけるには至っていない。これは2023―24年のフーシ派による商船攻撃の際と同じ構図だという。
この関係者によると、中国には米国と異なり、湾岸地域での防衛義務はなく、地域の海上交通路を守る軍事的な責任を負っておらず、そのような役割を引き受ける意思もほぼない。
中国政府自体も、ホルムズ海峡の航行を再開させるために軍事力を行使する考えはないし、他国にもそれはできないとの認識を示し、外交と対話による解決を訴え、国際海上交通路の安全確保と自由な航行の維持を呼びかけている。