Miho Uranaka

[東京 2日 ロイター] - 日本のエクイティ資本市場の風向きに変化の兆しが見えてきた。市場の主役は長らく保有株の売却による資金調達だったが、成長投資を目的に株式を活用するという「脇役」の存在も目立ってきている。川崎重工業の新株と転換社債(CB)発行による資金調達は、その変化を象徴的に映し出した。海外機関投資家を取り込む動きも強まり、日本企業の資本政策は新たな局面に入りつつある。

<ECM市場、けん引役は既上場企業>

LSEGのデータによると、今年1─6月の国内株式資本市場(ECM、企業が株式や証券を通じて資金を調達する市場)における調達額は216億ドルと前年同期比57.4%増加、案件数も19.2%増えた。公募増資や売り出しなどフォローオン案件は約129億ドルで31.5%増、CBは約68億ドルと前年同期の31倍に急拡大した。

一方、新規公開(IPO)による調達額は約20億ドルと46.4%減少、案件も35.5%減の20件にとどまり、市場のけん引役は既上場企業による資金調達へと移っている。

市場を支えてきたのは、政策保有株やプライベート・エクイティ(PE)ファンドの保有株売却だ。ゴールドマン・サックス証券の箕輪祐介・資本市場共同本部長は「ECMの規模の約6割は、売り出しやブロックトレードを通じたセカンダリーのセルダウン(売却)」だと指摘する。銀行や損害保険会社に続き事業会社にも広がっており、高水準で続くPEファンドによる投資を受けて回収の動きも今後さらに加速するとみる。

<CB回復が示す成長投資への転換>

こうした売却案件は市場をけん引してきたが、主に過去に保有していた株式を整理するという動きでもあった。これに対し、企業の資金ニーズの拡大を背景に足元では成長に向けた資金調達が目立ち始めている。

ある大手証券の投資銀行部門担当者は、政策保有株の売却は続くとしながらも、長期的には「徐々に減っていく中で増資の比率が増えていく方向」という。好調な業績を背景とした借り入れや内部資金だけでなく、株式市場を活用して成長投資の原資を確保する動きが広がる可能性がある。

その端緒となるのがCB市場の回復だ。CBは社債として資金を調達し、株価があらかじめ定めた転換価格を上回れば投資家が株式に転換できる仕組みで、企業にとっては足元の資金を確保しながら株価次第では将来的に自己資本を増やせるという利点がある。

川崎重工は2日、新株とCB発行による約1900億円の資金調達を決めた。航空機エンジンやガスタービン、半導体製造装置向けロボットなどの生産設備増強のほか、液化水素供給網の構築やフィジカルAIの研究開発などに充てる。

このほか、今年に入り日本製鉄が国内企業で最大となる総額6000億円、4月にはアドバンテストが設備投資などに充当するため1000億円のCBの発行を決議している。

背景には、日銀の金融政策正常化により「金利のある世界」が戻ったことで銀行借り入れや普通社債の調達コストが上がりやすく、企業が資金調達手段の組み合わせを見直し始めていることもある。

BofA証券の長田州之介・資本市場部門長は、「企業は、正しい資本構成は何なのか、どう調達するのがいいのかをより考えるようになっている」と述べる。「金利が上がり始めて株価も強い局面では、通常CBが先に大きく増え、その後エクイティが増える」と話し、日本でも米国と同様の循環が始まる可能性を指摘した。

政府はAIや半導体など戦略分野への投資を柱に2040年度までに370兆円超の官民投資を目指しており、企業の大型投資需要も期待される。

<海外マネー取り込み加速>

投資家層にも変化が表れている。日本株への海外からの関心の高まりやアクティビスト投資家の動きが活発化する中、海外機関投資家への販売を重視する発行体が増加している。海外投資家との対話を通じて長期保有につなげたいと考える企業が増えているためだ。川崎重工も、株主層の拡大を狙い今回の新株発行とCBは海外市場で募集する。

今年最大のIPOとなったタクシー配車アプリ大手GOの案件では、海外投資家比率は約7割に達した。ゴールドマンの箕輪氏によると、GOは海外機関投資家に販売したいという意向があったという。米資産運用会社のブラックロックや英資産運用大手M&Gインベストメンツ、米資産運用会社ウェリントン・マネジメントなど世界の大手機関投資家が投資家層に加わった。

こうした動きを受け、外資系証券各社も体制強化を進めている。ゴールドマンは投資銀行部門の人員を1年前から約1割増やし、営業バンカーの人員を拡充して案件獲得につなげる考えだ。

BofA証券も、海外経験が豊富な幹部を日本に呼び戻すなど陣容を厚くしている。長田氏によると海外投資家向けIR(インベスター・リレーションズ)が大幅に増えており、企業に同行して海外を飛び回る日々だという。

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