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アリーを演じたガガは圧倒的な存在感を見せる (c)2018 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

ジャクソンのコンサートでステージに引っ張り出されたアリーは、「シャロウ」をデュエット。それがYouTubeで拡散してアリーは話題の人になり、マネジャーが付き、急速にスターへの階段を上り始める。一方、ジャクソンのキャリアは落ち目で、ますます酒に溺れ、アリーを励ましたかと思えば、彼女にいらだちをぶつけるようになっていく。

実生活でもアルコール依存に苦しんだ経験があるクーパーは、自己破滅的なジャクソンを痛々しいほどリアルに演じている。アリーはそんなジャクソンとぶつりかりながらも、彼が人前で恥をかくような行動を取ったときにはかばい、ジャクソンの自尊心を守るために小さな嘘をつく。典型的な「イネイブラー(共依存の支え手)」の行動だが、そのさりげない描かれ方もこの映画の魅力になっている。

70年代の空気感に成功

『アリー』は、技術面でも才能あるスタッフに恵まれた。マシュー・リバティーク撮影監督の手持ちカメラによる流れるようなカメラワーク、美術担当のカレン・マーフィーによる温かみのあるロケ地選び、衣装担当のエリン・ベナッチによる時代を超越した衣装(ファッション通のガガもかなり貢献した)。

おかげで映画は現代の物語なのに、どこか70年代の空気感を醸し出すことに成功している。夜中まで曲作りにいそしむアリーが、スマートフォンの光を頼りに歌詞を書き連ねるシーンや、「シャロウ」のデュエットがYouTubeで拡散する場面など、デジタル技術が登場するシーンもあるにはあるが、非常に少ない。

アリーの寝室には、往年のシンガーソングライター、キャロル・キングの71年の名盤『つづれおり』のジャケットが飾ってある。アリーの初期の曲は、明らかにその影響を受けたフォークっぽいテイストがあるが、新しいマネジャーの下で彼女は見た目もサウンドも現代的なポップスターへと変身していく。

そんなアリーの変化を苦々しく思っていたジャクソンは泥酔したとき、彼女が魂と才能を売ってしまったと非難する。だが、そんなことはないと観客は知っている。大きな悲劇に見舞われたアリーが最後に見せる、苦悶の中にも未来に向けて立ち上がる決意の表情は、彼女が今後さらなる変化を遂げ、成長を続けていくことを確信させてくれる。

本作でのクーパーの演技は、これまでのどんな役よりも深みがある。アリーの成功を喜ぶ一方で、自己嫌悪にさいなまれる元スターを、歌も含めて全身でリアルに演じている。

だが、ある意味で使い古されたストーリーに新たな命を吹き込んだのは、何といってもガガの演技だ。彼女の圧倒的な存在感は、『アリー』をこれまでの『スタア誕生』とは別次元のスケールの大きな映画にした。

たった今見た映画に「打ちのめされた」気分で映画館を出るのは、なんという快感だろう。映画に心をわしづかみにされ、胸を締め付けられるとは、こういうことだったと思い起こさせてくれる一本だ。

<本誌2018年01月01&08日号掲載>

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