人の体を病気から守る驚異のシステムとは

解説 病原体を攻撃しその情報を記憶する巧妙で複雑な免疫の仕組みを読み解く

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防衛線 ナチュラルキラー(NK)細胞などの免疫細胞が癌細胞を攻撃する JUAN GAERTNERーSCIENCE PHOTO LIBRARY/GETTY IMAGES

免疫システムは人間の体にとって欠かせないもの。ありふれた風邪から癌のような深刻な疾患まで、さまざまな病気から人体を守る働きをする。

細菌やウイルスなどの病原体に感染したとき、免疫システムのせいで体調が悪いと感じることがよくあるが、その感染から回復するのもやはり、免疫システムのおかげだ。免疫は異常を起こすことも、アレルギーや自己免疫疾患などを引き起こすこともある。

免疫システムは、自然免疫と獲得免疫の2つの要素に分けられる。どちらも病気予防にとって不可欠だが、両者は大きく異なる働きをする。

■自然免疫

感染からの防御の最前線である自然免疫は、 消化器系内膜などの組織で作用している。自然免疫には、体内に侵入したあらゆる病原体を攻撃することに特化した細胞もいる。白血球の一種である好中球やマクロファージ、樹状細胞といった細胞は、病原体を取り込み、細胞内で殺すことができる。自然免疫の動きは速い。その細胞は体内の至る所に存在し、病原体が侵入すると数分以内に攻撃を始めて体へのダメージを抑える。だが、自然免疫が体内から全ての病原体を除去できるとは限らない。そこで次の、より特異的な防衛線が動きだすことになる。

■獲得免疫

獲得免疫は、あらゆる病原体に同じように反応する自然免疫よりも進化したものだ。獲得免疫は、異なる細菌に異なる方法で対処し、破壊する。獲得免疫で働く主な細胞は、B細胞、ヘルパーT細胞、キラーT細胞の3種類だ。B細胞は抗体を産生する。抗体は一部の細菌に結合し、その細菌が細胞内に侵入するのを防いだり、一部の病原体が産出する毒素に結合してその作用を中和したりできる物質だ。抗体はまた、侵入した細菌を自然免疫が破壊しやすくするため、細菌に「目印」をつける。抗体は胎盤や母乳を通しても伝わり、免疫システムが未熟な乳児を病気から守る働きもする。

ヘルパーT細胞は、その名のとおり他の細胞を助ける。自然免疫が病原体を見つけて殺したり、B細胞が最適な抗体を作り出すのを助ける。

キラーT細胞は、ウイルスに感染した細胞を破壊する物質を分泌する。ウイルスは細胞外では増殖できないため、細胞に侵入する。それに対して抗体は細胞内に入れない。そこで代わりにキラーT細胞が、ウイルスの増殖を防ぐために細胞ごと破壊する。

獲得免疫は、病原体を記憶することができる。そのため再び同じ病原体に遭遇したときには、より早く、より強く反応することが可能だ。麻疹(はしか)のような感染症に一度かかると二度と感染しないのはこのため。そして、ワクチンもこの仕組みを利用している。

ワクチンは、病原体の毒素を除くか弱めたものを原材料にして作られる。免疫システムをこれにさらすことで、病原体を認識するよう教え込むのだ。いつか「本当の」病原体に侵入されたとき、この獲得免疫が素早く反応する。

■免疫の誤作動

免疫システムは誤った働きをする場合もある。その一例がアレルギーで、病原体ではない侵入者に免疫システムが反応してしまうことで引き起こされる。多発性硬化症や1型糖尿病などの自己免疫疾患は、免疫システムが自分の体内の細胞を異物と見なして攻撃するために起こる。病気を防ぐためのシステムが病気の原因になってしまうのだから、なんとも皮肉なことだ。

免疫システムを理解するのは医学にとって極めて重要といえる。新たなワクチンや、免疫システムを利用した癌治療の研究は進み、アレルギーや自己免疫疾患に対する新たな治療法は、免疫システムの特定の働きだけを操作し、弱体化させることを目標にしている。

免疫システムに関する研究は日々進化し、数多くの病気の治療法に新たな道を開き続けている。

ファビエン・ビンセント(豪モナシュ大学免疫学研究員)/ファビエンヌ・マッケイ(同教授)/キム・マーフィー(同講師)