Tom Polansek Cassandra Garrison
[ラボック(米テキサス州)/メキシコ・サルティヨ 6日 ロイター] - 米テキサス州ラボックにある肉牛の肥育業者「ラボック・フィーダーズ」はドワイト・アイゼンハワー氏がこの国の大統領だった時代から西テキサスで肉牛を肥育してきた。だが何列も立ち並ぶ牛舎は今や、空っぽのまま放置されている。
共同経営者の1人によると、70年の歴史を持つ肥育場は閉鎖の危機にひんしている。原因は昨年、米政府がメキシコからの生体牛の輸入を止めたことだ。それまでここで育てていた肉牛は、大半がメキシコから仕入れたものだったため、その供給が完全にストップしてしまったのだ。
米政府は1年前、メキシコ当局が対応に苦慮していた肉食寄生虫「ラセンウジバエ」の侵入防止を目的に、メキシコ産の家畜に対して国境を封鎖した。今月に入って、最初の寄生がテキサス州の牛牧場で60年ぶりに確認され、既に供給不足、トランプ米大統領の貿易政策、深刻な干ばつのために大打撃を受けている米国の牛肉産業にとって新たな試練をもたらした。
一方、メキシコ北部の国境に接するコアウイラ州では明るい兆しが見えている。かつて生体牛を米国に送っていた農家が、今や牛肉を米国に輸出しているのだ。
米国最大の牛肉生産州であるテキサス州の牛肉業界は、国境封鎖によって1000億ドル規模の経営縮小を余儀なくされた。だが、メキシコの牛肉業界はこの逆境を好機と捉え、肉牛をより長期間飼育して食肉に加工する準備を整えるため、自ら肥育場の建設と加工施設の拡張に投資した。
サプライチェーン(供給網)をこのように拡大させることで、利益率が高くなる可能性がある。メキシコ産の米国向け牛肉輸出量は2026年の最初の4カ月間で急増した。
<米国内の肥育牛数が減少>
米国内の牛肉価格は今年に入って、メキシコからの生体牛の輸入禁止と干ばつのために米国内の肉牛の供給量が75年ぶりの低水準にまで落ち込んだ結果、過去最高値を更新した。干ばつはグレートプレーンズ全域で山火事を引き起こし米国内の生産者に家畜の大量殺処分を強いた。
業界データによると、米国はかつてメキシコから年間100万頭以上の生体牛を輸入しており、米国の牛肉生産のために販売される全頭数の約4―5%を占めた。
肥育業者によると、メキシコ産の肉牛は米国内で肥育されてから食肉加工工場へ送られ、その過程で多くの雇用を支えていた。その雇用は、生体牛を輸送するトラック運転手、肉牛の飼料となる作物を育てる農家、そして肉牛をステーキやハンバーグ用の食肉に解体する食肉処理工場の労働者などが含まれていた。
それらの生体牛は今やほぼすべてメキシコ国内で飼育され、食肉に加工されている。
ラボック・フィーダーズのマネージャー兼共同経営者であるカイル・ウィリアムズ氏は、米農務省が国境の検問所で生体牛の検査と治療を実施すれば安全に輸入を再開できるだろうとし、「そうした手順はすでに整っている。国境の両側で訓練してきた。生体牛を動かさないといけない」
ラセンウジバエは恒温動物の傷口や粘膜に産卵し、ふ化した幼虫が生きた肉に潜り込み、治療しなければ寄生された動物は死に至る。早期に発見すれば治療は可能だ。
ラボック・フィーダーズのウィリアムズ氏によると、米国内の牧場から調達する生体牛の価格が高騰したため肥育場は数カ月前に肉牛の受け入れを完全に停止した。事業を続ければ1頭当たり200ドル以上の赤字が出ることになる。この肥育場は最大4万頭の肉牛を収容できるが、現在の飼育頭数は4000頭程度に落ち込んだ。
<肥育牛数の再建には時間>
牛肉価格の高騰は、米中間選挙を前に家計の購買力を巡る政治問題となった。トランプ大統領は肉牛生産者に値下げを迫り、司法省に食肉加工大手の調査を命じ、さらにアルゼンチンから関税の低い牛肉輸入を許可することで対処しようとしてきた。だが、価格を引き下げるために効果があるのは米国内の肉牛の飼育頭数を増やすことだ。
米国の食肉加工業者は牛肉の生産量を増やして価格を抑えるために米国内の肥育牛の増加を待っているが、この過程は少なくとも2年を要する。
生産者によると、トランプ大統領がアルゼンチンから関税の低い牛肉の輸入拡大を推し進めたために、自分たちが肥育牛を再び増やす意欲が低下したという。この措置は米国内の牧場主を怒らせたが、小売価格の引き下げには至っていない。
生産者はまた、干ばつによるリスクや、将来的な利益の見通しが立たないことを懸念し、生産拡大に対して極めて消極的になっている。
<メキシコの生産者が利益を享受>
牧場主のエンリケ・ガルシア氏はメキシコ国内で事業を拡大している多くの牛肉生産者の一人だ。
彼はかつて年間約900頭の生体牛を米カンザス州へ輸出していたが、4年前に事業を多角化するために小規模な肉牛の肥育を始めた。ガルシア氏によると、米国の国境封鎖がこの移行を加速させ、彼の収入を8―10%押し上げたという。
ラセンウジバエは今や米国内で確認されており、国境がすぐに再開される可能性は低い。ガルシア氏は今週、こうした状況が自身の牛肉生産事業をさらに拡大する後押しとなっていると語った。「最終的にはこれまでと同じように、米国へ牛を届けることになる。ただ、今度は生体ではなく『肉』の形になるだろう」
メキシコの主要な食肉生産者団体によると、メキシコの対米牛肉輸出量は26年の最初の4カ月間で23%急増している。
メキシコの主要な牛肉輸出州の一つであるコアウイラ州はメキシコ政府の支援を受けて、輸出を支えるために連邦政府と米国の認証を受けた食肉加工能力の拡大を推進している。
ロリンズ米農務長官はメキシコ産生体牛の輸入停止のおかげでラセンウジバエの米国内への侵入を遅らせることに成功しており、追って通知があるまでメキシコ産生体牛の輸入は引き続き禁じられると強調した。
メキシコ全国家畜組織連合会のロヘリオ・ペレス氏は、国境封鎖によってメキシコの業界は適応を余儀なくされたものの、結果として業界を強化することになったと述べた。「食肉の生産から得られる利益は今やメキシコ国内にとどまっている。その結果として米国の産業が打撃を受けている」
<窮地に立つ食肉加工業者>
国境封鎖は既にひっぱくしていた米国内の供給不足を悪化させているため、一部の肉牛の肥育業者だけでなく米国の食肉加工大手も圧力を受けている。タイソン・フーズのような加工大手は生体牛の仕入れコストの上昇が牛肉の販売価格の上昇を上回ったのが原因で、米国内の牛肉事業で巨額の赤字を報告した。
米国の食肉加工大手の幹部らは、工場を効率的に稼働させるためにもっと多くの肉牛が必要であり、メキシコから生体牛の輸入を再開すれば今後1年―1年半の供給量に最も影響が大きくなるだろうと話した。
タイソン・フーズは今年、テキサス州ラボックの北約120マイル(約193キロ)にあるアマリロの牛肉工場の操業を大幅に縮小し、ネブラスカ州にある巨大な牛肉工場を永久に閉鎖した。
競合するJBSやカーギルは米国内の牛肉工場で異例の労働争議に直面し、賃上げを求める労働者側の要求に対して激しく抵抗している。
世界的な食肉流通業者のPMIフーズのダリン・パーカー社長は米農務省が国境を再開するべきだと強調した。
「牛肉産業に関わるということは、古き良き米国の伝統そのものだ」とパーカー氏は話した。「私たちはこの産業を、本気で守っていかなければならない」