Paul Sandle

[ロンドン 22日 ロイター] - ある平日の英ロンドン中心部。観光客や買い物客、通勤途中の会社員が行き交う通りで、警察によるリアルタイム顔認証の運用が行われていた。設置されたカメラが通行人の顔を読み取り、警察の監視リストと照合していた。

ロンドン警視庁はこの技術が警察活動を大きく変えつつあると説明する。2024年初め以降、暴力犯罪や性犯罪の容疑者を含む約2500人の指名手配者の逮捕につながったという。

ただ、リアルタイムでの顔認証技術はあらゆる通行人を「潜在的な容疑者」として扱うものであり、英国法の根幹をなす「推定無罪の原則」を損なうと批判する声も上がる。

過去に顔認証で身元を誤って特定された地域活動家が、市民的自由の擁護を訴える団体と共に起こした訴訟は、先月棄却された。これにより、顔認証技術のさらなる利用拡大に道が開かれた形だ。

中心部ビクトリア地区では18日、仮設の顔認証カメラや警察車両、「顔認証作動中」と警告する看板が設置されていた。しかし、通行人の多くは特に気に留めていない様子だった。

運用開始から1時間ほどで、管制車両に乗っていた警察官に最初の警告が入った。監視リストに該当する可能性のある人物がいる、という内容だった。警察官は男性に近づき、簡単な質問をした後で解放した。警察によると、この通知は逮捕状ではなく、裁判所が命じた制限措置に関連するものだったという。

約30分後、2件目の通知が入った。灰色のパーカーに黒い野球帽、青いスニーカー姿の男性が、歩道上で警察官2人に呼び止められた。男性は驚いた様子を見せ、手錠をかけられた後、警察車両が到着するまで路上で待機させられていた。

<警察側は「画期的な」技術を称賛>

リアルタイム顔認証システムを担当するロンドン警視庁のリンジー・チジック氏は「ロンドン警察の活動にとって画期的な技術だ」と評価する。強盗や性的暴行、首を絞める暴行といった重大犯罪の容疑者特定に役立っているという。

ビクトリアの運用現場で、チジック氏は最近の事例を紹介した。有罪判決を受けた小児性愛者の男性が、8歳の少女と手をつないで通りを歩いていたところを顔認証システムで特定されたという。「この男性は幼い少女と2人きりで外にいるべき人物ではなかった。結果として彼は今、刑務所に戻された」。

ロンドン警視庁によると、ビクトリアと北ロンドンのトッテナムで同時に行われた運用では、殺害予告、裁判所命令の違反、ロック式折りたたみナイフの所持などの疑いで計6人が逮捕された。

英国は以前から、公共空間での監視カメラ利用が世界的にも多い国の一つとして知られている。ロンドンでは、市民が1日に数百回カメラに映ることもあるとされる。

いまや英国は、ロンドン警視庁が主導するリアルタイム顔認証を使った警察活動でも、欧州有数の導入国となっている。

この技術では、通行人の顔を生体認証データに変換し、約1万7000人分の監視リストと照合する。リストの大半は、過去に拘留された際の写真をもとに作成されている。警察によれば、通常の監視カメラ映像から切り出した画像は精度が十分ではなく、照合には使われていないという。

「2つの生体認証データがごく短時間照合されるだけで、その後データは永久に破棄される」とチジック氏は説明した。同氏によると、昨年9月までの1年間で300万人以上の顔がスキャンされ、誤った警告は10件だった。いずれも、警察官が現場で誤りと判断したという。

「誤通知をもとに逮捕が行われたことは一度もない」とチジック氏は強調した。

<「全国民が容疑者」に>

市民的自由の擁護を訴える団体は、問題は認証精度だけではなく、個別の嫌疑がない人々を警察が一括してスクリーニングできる構図自体だと指摘する。

顔認証システムの使用に反対してきた団体「ビッグ・ブラザー・ウォッチ」は、公共空間での大量監視を常態化させる恐れがあると批判している。

先週末には、ロンドン中心部で行われた反移民デモでもリアルタイム顔認証が使用された。抗議活動でこの技術が使われたのは初めてで、市民団体やデモ主催者から批判の声が上がった。

生体認証による身元確認が言論の自由を行使するための前提条件になってはならない、とビッグ・ブラザー・ウォッチは訴えた。

同団体の上級法務・政策担当官ジャスリーン・チャガー氏は「警察はすでにリアルタイム顔認証システムを監視カメラに組み込む実験を進めている」と指摘。「今回、抗議活動の場で初めて、この『ジョージ・オーウェル的な』技術を使用した」と、市民の行動が監視される社会を描いた小説「1984年」の作者を引き合いに出して批判した。

「玄関を出た瞬間から追跡され、『全国民が容疑者』にもなりかねない。プライバシーや言論の自由、結社の自由といった権利に、深刻な影響を及ぼし得る」とチャガー氏は続けた。

ロンドン警視庁は今回のデモで、参加者の中に公共の安全を脅かす可能性のある人物がいるとの情報を得ていたと説明。リアルタイム顔認証システムはデモ行進のルート上ではなく、会場に向かう経路地点で使用されたとしている。

英高等法院は4月、ビッグ・ブラザー・ウォッチによる司法審査請求を退け、リアルタイム顔認証の使用は合法だと判断した。政府は現在、新たな法的枠組みの整備を進めている。

ロンドン警視庁はこの技術を責任のある形で運用できることを示してきたとし、市民の支持も得ているとチジック氏は主張する。

「市民は、自分たちが暮らす街で起きた犯罪の解決を望んでいる。長らく指名手配されていた人物や偽名で活動していた人物が、本来いるべき刑務所へと戻ることを望んでいる」と述べた上で、「四半期ごとの調査ではロンドン市内での技術使用について、市民の約8割が支持している。非常に高い数字だ」と語った。

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