Noriyuki Hirata
[東京 29日 ロイター] - 円安要因が絶えない中、市場では政府・日銀による為替介入への警戒感がくすぶる。ドルの上値が重くなる一方、介入後の下値である155円付近で買い注文が集まる中で、外貨準備や政治的許容度を含めた介入余力の値踏みが始まっている。介入は円安進行を短期的に抑える効果が見込まれる半面、頻発すれば効果が逓減する可能性もあり、当局の「神通力」がどこまで通用するかに関心は向かっている。
<IMFの目安は「ハードル」か>
今後の介入に関して、市場で意識されているのは、国際通貨基金(IMF)の実務的な目安だ。介入初日から3営業日以内の介入を1回とカウントし、直近6カ月間の介入が3回以下にとどまれば、その国は為替レートが「自由変動相場制」の分類になるとされる。大型連休中には、4月30日─5月4日、5月6日─8日の2つの介入ラウンドを消化したとみられている。
介入回数が規定を超える場合、特定の水準や経路を目標としない範囲で当局が為替市場に介入することがある「変動相場制」と分類され得る。市場では、国際的な評価にネガティブになりかねないとの見方もある。
一方、三村淳財務官は大型連休の直後、IMFの目安について「介入の回数を制約するルールではない」との認識を示した。
あおぞら銀行の諸我晃チーフ・マーケット・ストラテジストは「過度な変動を抑える方が重要との考え方だろう」との見方を示す。IMFの目安で自由変動相場制に該当しなくなるとしても「まったく気にしていないのではないか」とみる。
<「5兆円で30回」>
財務省が29日に発表した4―5月(4月28日─5月27日)の介入実績は11兆7349億円。このうち下げ幅が5円程度になった4月30日は5兆円程度と市場では推計されている。
ゴールドマン・サックスの田中百合子エコノミストは介入余力について、5兆円規模の介入なら「30回ほどできる計算」と試算する。
為替介入は、自国通貨売りの場合は理論的に無制限とみられる一方、他国通貨売りの場合は保有資産の規模が制限となる。円買い介入の場合、財務省は外貨準備のドル資産を売却し、円を買う必要がある。26年4月末時点で外貨証券は約1兆ドル。1ドル160円換算なら、4―5月の介入で投じた11兆円を差し引いても約150兆円残る。
ただ、「あと数回で限界という訳ではないだろうが、米国債市場への影響などを考慮すれば、外貨証券を際限なく取り崩すのは現実的ではない」(ニッセイ基礎研究所の上野剛志主席エコノミスト)との見方は根強い。ゴールドマンの田中氏も「外貨証券を全て介入に用いることは考えにくい」とみる。
<介入を「待つ」動き>
市場では、「介入待ち」の動きもみられている。
ある国内銀行のディーラーは、155円─157円ゾーンにドル買い注文が集まっていると話す。輸入企業などの実需のほか、介入を見越して、ドルの下値を拾おうとする「介入待ち」の動きも含まれるとみられている。個人投資家でも同様の行動が複数のリテールFX会社で観測されている。多くの市場関係者は「足元の環境下で介入が実施されても、155円は簡単には割り込みそうにない」(国内銀行のディーラー)と口を揃える。
円高材料と目される日銀利上げにしても、年内2回の織り込みが進んでいる。年内3回以上の思惑が高まるようでないと円高促進の効果は限られるともみられており、ハードルは低くない。
米国とイランの和平に向けた協議が進展して「有事のドル買い」が後退するケースもあり得る。ただ、ホルムズ海峡の航行正常化には時間を要するとみられており、原油価格の高止まりによる世界的なインフレ懸念はくすぶりかねない。米連邦準備理事会(FRB)の利上げ観測の強まりに加え、国内では財政拡張的な政策への思惑は根強く、円売り材料が重なっている。
<続く神経戦>
24年7月の介入前につけたドルの高値は161.96円。これを上回ると、プラザ合意前にあたる1985年2月の高値262.80円から2011年10月の安値75.31円までの下落の半値戻しに当たる169円付近が、目先の上値めどとなる可能性があると三菱UFJモルガンスタンレー証券の植野大作チーフ為替ストラテジストは話す。
ただ、さらに上方向では明確な節目は260円付近まで見当たらないとも指摘する。このため市場では「政府としては162円どころは死守したいだろう」(別の国内銀行ディーラー)との見方が優勢で、次の介入ポイントはその手前とみられている。
三菱UFJMS証券の植野氏は「介入余地はまだあるが、外貨準備が減るほど、投機筋に足元を見られかねない」との見方を示す。ムダ弾を撃てない状況下では、円安圧力が落ち着くまで「当局と市場の神経戦は続きそうだ」と話す。
ニッセイ基礎研の上野氏は「米国の理解が重要」とみている。協調介入に動かなくても、理解を示すなら、市場は介入の限界がまだ先と受け止めるとの見方だ。一方、米国が難色を示すようなら「投機的な円売りを招きかねない」という。