Liangping Gao Marius Zaharia
[27日 ロイター] - 中国内モンゴル自治区の南部で農場を営む左小勇さんは、4月下旬に出した羊飼いの求人広告が、ソーシャルメディアでその日最大の話題となったことに驚いた。
中国のXにあたる「微博(ウェイボ)」で数時間のうちに5900万回閲覧され、2万1000件ものスレッドが立てられるなど大きな反響を呼んだ。そして、2人の募集枠に対し、上海や重慶といった大都市のホワイトカラーや中国各地の工場労働者、さらには大卒者まで含め700人以上の応募が殺到した。中国の雇用市場がいかに労働者に厳しい状況にあるかを物語るエピソードだ。
左さんは、「これほど話題になるとは思っていなかった」と話す。辺境の厳しい環境での仕事だが、応募者の10人に1人が大学を卒業したばかりで、他には借金を抱えている人、過酷な工場労働に従事している人、あるいは職場の人間関係に疲れた人もいたという。
「一般の人が仕事を見つけるのが本当に大変なようだ」
<過酷で低報酬な労働市場>
中国の失業率は表向きは5パーセント強で推移しているものの、不完全雇用が増加しているほか、民間部門の所得の伸び率はこの10年の大半において経済成長を下回っている。ブルーカラー、ホワイトカラーを問わず、週6日、午前9時から午後9時まで働く「996」文化に不満を抱く。
アナリストらは、今後数カ月で労働市場はさらに悪化するとの見通しを示している。イラン情勢を受けたコスト上昇が工場を直撃し、人工知能(AI)の導入が加速する中、今夏には過去最多となる1270万人の大学卒業生が就職活動を始めるためだ。
金融大手INGの中国チーフエコノミスト、リン・ソン氏は、左さんの求人広告に対する反応について、「依然として競争が激しく多くの場合で見返りの少ない労働市場の現状を象徴している」と述べた。
「都市部の雇用は魅力を失い、ますます希少になりつつある」
中国の5%の経済成長は、輸出の増加に大きく依存している。製造業者が世界で市場シェアを獲得するために利益を犠牲にしているため、国内の労働者への圧力はさらに高まっている。
ジェームズ・グオさん(21)は、輸送用コンテナを製造する工場での仕事に疲れ果て、この求人に応募した。
「1日13時間以上働き、手が腫れ上がって水ぶくれができるまでねじを締め続け、トイレに行く時間さえもない仕事がどんなに大変か、想像もつかないだろう」と、グオさんは訴える。「仕事があまりにも辛く、もう耐えられない」
左さんが募集した羊飼いの仕事は、夏には2000ヘクタールの牧草地で3000頭の羊の放牧を行い、気温がマイナス30度を下回ることもある冬には屋内で餌やりや清掃作業を行う過酷な内容だ。
左さんはできれば夫婦を雇いたいと考え、報酬として1人8000元(約19万円)の月給を支払う予定だ。これは都市部の民間企業の平均給与である約6000元を大幅に上回る額で、さらに住居と食料品も提供する。
チャイナ・マーケット・リサーチ・グループのショーン・レイン氏は、名門大学の修士号取得者が上海で得られる給与も同程度だが、その大部分は狭いアパートの家賃やその他の生活費に消えてしまうと述べた。
200頭の牛も所有する左さんは、給与は過酷な労働に見合ったものだと話す。
「給料は高いが、長く働き続け、冬を乗り切れるかどうかが最も重要だ。これは観光とは違う」
<35才の呪い>
左さんによると、応募者の半数は1990年代生まれ。中国で「35才の呪い」と呼ばれる現象の中心に位置する世代だ。公共部門を含むほとんどの雇用主が、35才より上の候補者を採用対象から外していることが調査で示されている。
ウェリントン・ビクトリア大学の上級講師、クリスチャン・ヤオ氏は、「IT業界の流行語だった『35才の呪い』は、より広い経済的現実になりつつある」と指摘する。
Eコマース業界で働く28歳のウーさんは月収1万元だが、羊飼いの仕事に興味を持った。
「都会の生活から逃れ、厄介な人たちと関わるのをやめたい。世間から遠いところで、静かで平和な生活を送りたい」と、ウーさんは話した。
左さんは最終的に、2組の夫婦を羊飼いとして採用した。全員が1980年代生まれで、農場で働いた経験がある。候補リストにはさらに40組の夫婦が残っているが、独身者や都市部の若者は採用対象外だという。
「ここでは、丸1年、誰にも会わないこともある。そんな孤独に耐えられるかどうか分からない」と、左さんは話した。