Tamiyuki Kihara Yoshifumi Takemoto
[東京 28日 ロイター] - 高市早苗首相が掲げる成長戦略や危機管理投資の一部財源について、政府は「つなぎ国債」を充てる方針を固め、今夏策定の「骨太の方針」に明記する見通しだ。自民党は28日、日本成長戦略本部の会合を開き、政府への提言案を大筋で了承した。ロイターが確認した提言案には、「つなぎ国債」の利用も盛り込まれている。政権の看板政策の実現と財政健全化への配慮を両立させる狙いだが、足元では金利上昇局面が続く。政府・自民の考えが市場の理解を得られるかは、今後の大きな課題になりそうだ。
<提言案に示された「つなぎ国債」>
自民の提言案は表紙を含めて26ページに及ぶ。同案の中では、高市氏が掲げる「危機管理投資」と「成長投資」の拡大を進めるため、「通常の歳出とは別に、予見可能性を持って実施できるよう『新たな投資枠』を創設するべき」と提示。特に経済安全保障の観点から重要な分野への投資については「複数年度で財源を確保した上で、別枠で管理する政策スキームを検討する必要がある」とした。
「償還財源の裏付けのある『つなぎ国債』の発行によって先行的な資金調達を可能としたもの」に関しては、債務残高対GDP(国内総生産)比やPB(プライマリーバランス)などの指標で「経費及び財源の金額を除いて別枠で管理するべき」とした上で、スタートアップや中堅・中小企業の稼ぐ力の強化など、特に民間企業の投資を引き出す取組については、「成長投資」として「新たな投資枠」の対象とするべきだと明記した。
政府の経済財政諮問会議も4月、「新たな投資枠」について議論。「つなぎ国債」の発行によって先行的な資金調達を可能としたものについては別枠管理とする方針を示している。
<政府内には「野放図な利用」を否定する声>
政府・自民が足並みをそろえて「つなぎ国債」に言及する背景には、政府の厳しい懐事情がある。米・イスラエルによるイラン攻撃もあり、物価高は長期化、深刻化し、先行きは依然として見えない。政府はやむなく2026年度補正予算の編成に動き出したが、財源は特例公債(赤字国債)に頼らざるを得ない状況だ。
前年度の国債発行予定額の減額分を補正財源に充てたことで、高市氏が掲げる重要分野への投資の財源確保はより厳しくなった。政府関係者はロイターの取材に、「つなぎ国債」が今夏策定する政府の「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太の方針)にも盛り込まれる予定だと明かした。その上で、「いまの状況では『つなぎ国債』を使うしか財源確保の方法がない」と説明。償還財源があらかじめ示されることから、「一般会計で財源を工面するよりは節度があるのは間違いない」と述べた。
一方、「つなぎ国債」であっても確実に償還を見通せる分野には限りがあるとも指摘。長期の別枠管理となれば、対象事業の進捗状況や償還財源確保に対する監視が甘くなる可能性にも触れ、「決して野放図に利用していいものではない」とも語った。
<専門家は「さらなる円安・金利上昇」を懸念>
政権にとって財源確保は、今後も大きな課題となりそうだ。高市氏が掲げる消費減税では、食料品に限って税率をゼロとした場合も2年間で約10兆円の財源が必要となる。防衛費の積み増しに向けた新たな財源も必要となる。
木原稔官房長官は28日午前の記者会見で「つなぎ国債」による財源確保について、これまでも事例がある点を強調した上で、「責任ある積極財政の考えの下で、こうした取り組みをさらに広げ、危機管理投資、成長投資により強い経済の実現に取り組む」と語った。記者団が市場の理解をどう得るかを問うと、「引き続き日々の市場動向や経済指標に十分注意しながら、政府債務残高対GDP比を安定的に引き下げていくことで財政の持続性を実現し、マーケットからの信認はしっかり確保していく」と述べた。
こうした政府の姿勢を専門家はどう見ているのか。
農林中金総合研究所の南武志・理事研究員は、現下の経済状況について「民間企業ですら経済の先行きの見通しはなかなか確たるものを言えない」という。政府の成長戦略には、より確実性の高い財政見通しが求められると強調する一方、「国費を投じた成長戦略が報じられると株式市場が好感するのも確かだ」とも述べた。
ただ、「つなぎ国債」を別枠管理するとしても、「債券市場から見れば国債の増発に変わりはない」とし、さらなる円安、長期金利上昇につながることへの懸念を語った。
明治安田総合研究所の小玉祐一・チーフエコノミストは、提言が正式決定する前のコメントを控えた上で、高市政権が債務残高対GDP比を財政運営の目標に設定している点について「数値の変動サイクルに非常に長い時間を要する」と指摘。「足元はインフレなので改善傾向になりやすいが、本来的には財政運営の目安には適さない。やはり利払い費などの財政収支を総合的に勘案して運営に当たるのが望ましい」と述べた。
(鬼原民幸、竹本能文 編集:橋本浩)